少子化の中の高校制度
前編で見たように、少子化の速度は地域によって違う。近年、全体としては急速な少子化が進んでいるが、東京圏では減るどころか微増で、2府2県では微減、そして非三大都市圏では18歳人口は減り続けている。
東京大学を含む難関大への進学対策という観点では、地方はますます不利になると考えられる。
具体的には、同じ地域の高SES家庭出身者が高い学力を得て集まる進学校(松岡2019)6を維持することが難しくなる。定員が同一であれば、少子化によって入学難易度が下がることになり進路も多様になる。
生徒数が少ない地方では一つの高校の中で希望進路別コースに分ける対応を行っているが7、同じ目標を共有する同級生が大勢いて受験に最適化されたカリキュラムで教育を受ける東京圏の中高一貫校より難関大を目指す上では不利といえる。
その上、地方の経済が成長せずに都市部の家賃などが値上がり続けたら、かつて東大を含む(いわゆる)旧帝大を目指していた地方の高学力層が地元の国立大学8を第一希望にするようになっても不思議ではない9。
高校制度の地域格差は、高校の進学率が上がる中で各都道府県における人口変動や産業・職業構成などに応じた政策によって生じたと考えられる10。
各地域の実情に合わせた高校教育制度といえるが11、個々の子どもにとっては、どこで育つかによって現実的に取り得る選択肢が相当に制限されていることになる12。
6 「教育格差(ちくま新書)」の第5章を参照。
7 田垣内義浩(2022)「地方県の非都市部からの大学進学 : 低進学率地域の高校におけるリソースの制約と傾斜配分」『教育社会学研究』110, pp.213-235.
8 旧帝大より入学難易度の低い国立大、の意。
9 高学力でもより入学難易度の低い大学に入るミスマッチはアンダーマッチングとして知られ、特に地方で起きているとされる(朴澤編著2022など)。
10 香川めい・児玉英靖・相澤真一 (2014)『“高卒当然社会”の戦後史: 誰でも高校に通える社会は維持できるのか』新曜社.
11 社会全体で見ると普通科比率は30年以上ほとんど変わっていない。「2 高等学校学科別生徒数の構成の推移」『高等学校学科別生徒数・学校数』文部科学省。
12 一方で、地方自治体では人口流出が懸念されている。近年、地元の大学への進学率が上がっているが、この背景には、経済的に県外に行けないだけではなく、地方自治体による地元進学推進があるという (「地元大進学率44%、過去50年で最高(データで読む地域再生)」『日本経済新聞』(2023年7月15日))。地方創生を謳った東京23区の大学の定員抑制策も行われている(「これが地方創生? 東京23区の大学定員規制に「愚策」の声 一極集中の主な要因は「就職」だが...」『東京新聞』(2023年1月23日))。なお、朴澤(2017)によると、東京で大学増設を行わない場合、東京圏出身の女性や東京近県からの進学者の進学を抑制することになる。地方からの進学移動については(遠藤2022)に詳しい。
◆ 遠藤健 (2022) 『大学進学にともなう地域移動 : マクロ・ミクロデータによる実証的検証』東信堂.
◆ 朴澤泰男 (2017)「18歳人口減少期の高等教育機会大学進学行動の地域的差異から見た地域配置政策の含意」『高等教育研究』20, pp.51-70.