『大鏡』に出てくる不気味な怪事件
いよいよ、道長も父の兼家のように、利にさとい権力者の顔を度々見せるようになった。
一条天皇の即位式では、天皇の玉座である高御座(たかみくら)に髪の毛が付いた生首が転がっているという事件が起きた。
これについては、過去記事(『光る君へ』文献にも描かれている藤原兼家の狡猾さ、「たぬき寝入り」で凶事をスルーした出来事も/2024年3月2日公開)で解説した通り『大鏡』にもある逸話だ。ただし、ドラマでは文献と異なり、兼家ではなく道長が冷静に処理している。将来、道長が兼家のように狡猾になることを彷彿させるシーンとなった。
まひろとの決別がきっかけで、道長はなりふり構わない「権力の鬼」と化していくのか。また、まひろは変わりゆく道長を、どんなふうに見つめるのか……。今回も今後が気になる展開となった。
次回「思いの果て」では、道長はかねて持ち上がっていた源倫子(ともこ)との婚姻話を進めるように兼家に依頼。一方では、姉の詮子が、源明子の方を道長に結び付けようとする。道長の「二人の妻」に注目したい。
【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『敗者たちの平安王朝』(倉本一宏著、KADOKAWA)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)
『源氏物語の結婚──平安朝の婚姻制度と恋愛譚』(工藤重矩著、中公新書)
【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など。