人道的見地から資金拠出を続けるのか

 何より急がれるのは事実関係の確認です。本当にUNRWAの職員がハマスによるイスラエル攻撃に関与していたかどうか。

 国連は内部調査を進めています。関与が指摘された12人のうち7人については実際の関与が確認され、解雇されました。また、1人は死亡しています。残りについても調査を進め、関与が確定した者には刑事罰を科すことも含め責任を取らせる意向を示しています。

 国連はこれと同時に、外部委員からなる調査機関を立ち上げ、UNRWAが中立性を保っているかを調べることにしました。3月に中間報告、4月に最終報告をまとめる予定です。UNRWAは信頼を取り戻す努力を急ぐ必要がありそうです。

 しかし、ガザ住民への支援が滞る事態も回避しなければなりません。イスラエルの攻撃によってガザの犠牲者は増え続け、避難者の命は危険にさらされる毎日です。国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し、ジェノサイド(集団虐殺)を防ぐためのあらゆる手段をとるよう命じました。

 最大の資金拠出国である米国はUNRWAに対し、再発防止のための根本的な組織改革を求めています。ただ、それには時間がかかります。日本政府も、米国などに追随して資金拠出の停止を表明したまま、ガザの人々への具体的な救済策を示していません。昨年11月にヨルダンのUNRWA本部を訪れた上川陽子外相は、ラザリーニ事務局長に対し「引き続きUNRWAをしっかりと支援したい」と表明しましたが、具体策は見えていません。

 今までのところ、資金拠出停止を表明したのは米国をはじめとする西側先進国が中心で、中国やロシアなどがそれに反発する構図となっています。そうしたなか、ガザの住民は日々、苦境に立たされています。このまま資金が途絶え、UNRWAは活動を停止することになるのでしょうか。それとも西側先進国は、国連の求めに応じて人道的見地から資金拠出を続けるのでしょうか。当面の焦点はそこに絞られています。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。

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