イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続ける中、ガザ住民の生活を支援する国際機関・国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の事業が危機に陥っています。ガザのイスラム組織ハマスが昨年10月にイスラエルを奇襲攻撃した際、「UNRWAの職員が攻撃に関わっていた」という情報をイスラエルが提示。それにより日本を含む主要な国々がUNRWAへの支援を凍結すると決定したためです。イスラエルの攻撃によってガザでは多くの住民が苦境に陥っており、支援自体は欠かせません。問題解決の道はあるのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
規模の大きな国連機関
UNRWAとはどういう組織でしょうか。なじみは薄いものの、実は第2次世界大戦終結の4年後に設立され、75年の歴史を持つ古い機関なのです。
1948年、イスラエルがパレスチナの地で建国を宣言すると、これを承認しない周辺のアラブの国々(シリア、ヨルダン、レバノン、イラク、エジプト)が一斉にイスラエルに攻め込みました。第1次中東戦争です。激しい戦闘の末、多くの難民が発生。土地や家を失ったパレスチナ人は難民キャンプでの生活を強いられる事態に陥りました。
国連は救済機関や調停委員会を設置して帰還を進めようとしましたがうまくいきません。そのため、「まずは当面、難民を救済しなければ」と、1949年の国連決議により発足したのがUNRWAです。パレスチナ問題は解決せず、その後も難民は増え続け、UNRWAの組織は拡大。現在に至っています。
本部はヨルダンの首都アンマンとガザにあります。ヨルダン、シリア、レバノン、ガザ、東エルサレムを含むヨルダン川西岸の5カ所に事務所を置いて、難民への支援活動を行っています。職員数はおよそ3万人。大部分は地元採用のパレスチナ人です。
世界各国で難民支援を行う国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の職員が1万2000人、新型コロナ対策を担った世界保健機関(WHO)は7000人。それと比べると、国連機関の中でもUNRWAがいかに大きな組織かがわかります。
活動の主軸は教育です。2万人近い教員が700の学校で教壇に立ち、54万人の児童・生徒を教えています。学校とは別に職業訓練センターもあり、8000人が学んでいます。UNRWAの年間予算十数億ドルのうち6割が教育活動に充てられます。そのほか、医療・保健、生活支援、難民キャンプの道路などのインフラを整備する事業を行っています。
本来、これらは政府の役割です。しかし、パレスチナ自治政府は難民の支援に十分な機能を発揮できていません。UNRWAの機能は、日本でいえば文部科学省や厚生労働省などのようなものです。