覇権国として世界を支配した(写真:creativetan/Shutterstock.com

四方を海に囲まれた島国ながら、産業革命を経て存在感を増したイギリス。政治・経済・環境など日本との共通点も多く、親しみを感じる人も多いのではないだろうか。しかし、大帝国を築いたイギリスも第二次世界大戦後は、アメリカに覇権を奪われ、ゆるやかな衰退の道をたどっている。日本と「似ている」のならば日本も同じ道をたどるのだろうか。そんな未来を占う上で重要な1冊となるのが、世界全体を視野に入れた歴史分析に基づく『イギリス帝国盛衰史 グローバルヒストリーから読み解く』(秋田茂著、幻冬舎)だ。

(東野望:フリーライター)

辺境の地にあった「二流国」イギリス

 そもそも「イギリス帝国」はいつ興ったと考えればいいのか。

 本書では第1章「帝国の黎明期──二流国イギリスの『帝国の兆し』」において、イギリス帝国のスタートをどこに求めるかは諸説あるとしつつ、15世紀半ばに始まった「大航海時代」から話を進めている。

 この時点ではイギリスを「二流国」と扱っているわけだが、実際に当時のヨーロッパを代表する大国はスペインだった。どちらかといえば辺境に位置するイギリス(イングランド王国)では、海外貿易が可能な物産は羊毛くらいしかなかったという。

イギリス帝国盛衰史 グローバルヒストリーから読み解く』(秋田茂著、幻冬舎)

「帝国の兆し」を見せたアイルランドへの進出

 では“二流国イギリス”が帝国を築く兆しは、歴史上どの段階で見られたのか。著者の秋田茂氏(大阪大学大学院人文学研究科教授)は「十七世紀の全般的危機」を背景に起きた「アイルランド・アルスター地域(現在の北アイルランド)への進出」を挙げ、海を隔てたアイルランドでの影響力拡張が「領土の拡大」やそれを支える「モチベーション」の原点になったと指摘する。

この時期のヨーロッパは、天候不順による凶作と食糧不足、さらに、それまで新大陸からヨーロッパに大量に供給されていた銀の流入量低下による経済の停滞などから深刻な不況に見舞われていた。これはイングランドも例外ではなく、苦しい状況の中、人々が新たな活路を求めたのが、アイルランド・アルスター地域だったのである。