カブトムシが濡れ衣を着せられていた理由とは?(写真:アフロ)

「江戸時代に流行した鼻だけマスクとは?」「カブトムシが嫌われていた理由は?」「明智光秀が信長を欺けた理由」など、学校では習わなかった歴史の裏側に迫る『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』(中央公論新社)。『武士の家計簿』で知られる磯田道史氏が描いた2023年の新書ベストセラーは、時に真面目に、時に笑いながら歴史の奥深さを学べる一冊だった。

(東野 望:フリーライター)

古文書解読の達人が書き下ろした歴史の裏側

 新潮ドキュメント賞を受賞し、映画化もされた『武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮社)や、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災』(中央公論新社)など、輝かしい受賞歴を持つ歴史学者の磯田道史氏。

 そんな彼の『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』(中央公論新社)が、トーハン、日本出版販売が発表した「2023年 年間ベストセラー 新書ノンフィクション部門」でそれぞれ1位を獲得した。発売は2022年11月だが、あらためて手に取ってみると、眠くて退屈…という日本史のイメージを覆し、楽しみながら歴史に触れられる一冊であることがわかる。

2023年の年間ベストセラーとなった『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』(磯田道史著、中央公論新社)

 本書の特筆すべき点は、著者の磯田氏が難解な古文書を解読していくうちに知り得た、一般の歴史関連書籍ではあまり扱わない情報もふんだんに書かれていること。誰もが知っているような歴史上の偉人や重大事件が出てくるのはもちろんだが、その裏話だけでなく、名もなき武士や庶民の生活にまつわるものまで実にさまざま。そのどれもが、当時の人の思いや生き様が垣間見える内容となっている。

江戸時代の便利グッズ「御鼻袋」とは?

 例えば、新型コロナ感染症のパンデミック下では欠かせなかったマスク。磯田氏は江戸時代に実在した「マスク」について、次のように記している。

江戸時代の鼻だけマスク「鼻袋」の存在に気付いた。「公家衆が厠などその外、臭い穢れをさけるため、紫縮緬などで拵え、紐を両耳にかけて鼻を覆う袋」だ(『俚言集覧』)。

 民衆が急速に力をつけていった江戸後期、裕福な町人の間では国学が流行して公家文化への憧れが高まっていたという。そんな風潮に目をつけて販売されていたのが「御鼻袋」である。しかも当時の大坂ガイドブック『天保山名所図会』の巻末には「美香をかぎて、あしき臭を除」という宣伝文句とともに、「御鼻袋」の広告まで載っていたという。磯田氏曰く、これが日本最古のマスク広告ではないかと推察している。