生まれ持った身分によって働き方がほぼ固定されていた江戸時代の人々。当時の働き方はいったいどのようなものだったのだろうか? 『仕事と江戸時代——武士・町人・百姓はどう働いたか』(戸森麻衣子著、筑摩書房)は、江戸時代の仕事の実態について身分別に詳しく紹介している書籍だ。現代の派遣労働のような非正規雇用に近い働き方もあったという江戸時代の実態に迫る。
(東野 望:フリーライター)
江戸時代は身分によって生涯の仕事が決まっていた
就職面接で「御社のために頑張ります」などと言った経験はないだろうか? なぜ日本人は会社のために尽くす意識があるのか。そのルーツは江戸時代かもしれない、と思わせてくれたのが、今回紹介する書籍『仕事と江戸時代——武士・町人・百姓はどう働いたか』(戸森麻衣子著、筑摩書房)だ。
著者は日本近世史を中心とした人文社会を研究している戸森麻衣子氏。本書は江戸時代に暮らす人々の働き方について、当時の身分制度を踏まえて詳しく紹介している。江戸時代の雇用について戸森氏は以下のように集約する。
身分により固定化された「働く人生」
江戸時代における身分階層は「武士・百姓・町人・宗教者」の主に4つに大別される。
武士はいわゆる時代劇に出てくる「お侍さん」だが、実際のところ全体の7%ほどしかいなかったという。さらに武士の中でも身分階層は細かく分かれていた。
武士はまず「徳川将軍家臣団(幕臣)」と「大名家臣団(藩臣)」に二分される。さらに大名家臣団は加賀前田や薩摩島津といった「大大名家」と、各市町村程度の規模である「小大名家」に分かれた。家臣団の中でも階層は4段階あり、上層から「士分(真正)・准士分(徒士)・足軽層・中間、小者層(武家奉公人層)」と分けられる。
武士は「主家・主君を守る」のが仕事
戸森氏は武士の「働く意識」について以下のように述べている。
武士の場合、「幕府や藩の役職に就いて働く」というより「家臣として主家・主君のために尽くす」という忠誠意識が優先した。
忠誠心を誓うことこそが武士の「大切な仕事」だったということだ。現代でいうところの「会社のために尽くす」意識と少し重なる。我々日本人には主家・主君に尽くすDNAが組み込まれているのだろうか。
武士は家を守り、継承していくことが最優先だったため、継承者は必ずしも血統主義ではなかった。次世代の存続にこだわったのは武士だけでなく、百姓も同じだったという。