- 2020年ごろから世間を騒がせた「ジョブ型雇用」ブーム。最近では企業の中期経営計画などでもさほど注目されなくなった。
- 人事改革の「シンボル」としてのジョブ型はもはや「終わり」つつある。一方で「ジョブ型的」な人材マネジメントは長期トレンドとしてこれからも続く。
- 「人的資本経営」など次々と新たな人事関連のバズワードが生まれるなか、冷静な分析と適切な議論を続けることが欠かせない。(JBpress)
(パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児)
「ジョブ型雇用」ブームとは何だったのか
日本では2020年ごろから、「ジョブ型雇用」が急激にブームとなりもてはやされました。新聞記事でも毎日のようにジョブ型、ジョブ型と騒がれ、人材サービス業も毎日のようにセミナーを実施していました。
最近ではジョブ型雇用という言葉を聞く機会が減ったように思いますが、ジョブ型雇用のトレンドはどうなったのだろうか。
Google Trendのデータを確認すると、2020年と2021年に大きな検索のトレンドがあったのち、大きな山がないまま推移している様子がわかります。筆者も組織と労働の専門家として日々数多くのテーマで取材や勉強会の登壇を依頼されますが、ジョブ型については2022年ごろからそうしたテーマからも徐々に消えていきました。
ジョブ型トレンドに含まれていたねじれ構造
この2020〜21年ごろは、ジョブ型雇用を語る研究者や有識者のような論者からも、「真のジョブ型雇用ではない」「そもそもアメリカでも…」といった起源論や真偽を巡る議論が席巻していました。実務的なレベルの示唆の全くない、空中戦のような議論がそこかしこで起こっていました。
いざ人事部と議論をしてみても、例えば、「ジョブ型だと解雇がしやすくなる」「ジョブ型だと専門性が付く」「流動性が高い国しかジョブ型は向かない」などの、拡大解釈としか言いようがない誤解や議論ばかりでした。こうした拡大議論は、いまだに一般レベルではよく見られます。ジョブ型に関する議論は、無用かつ混乱を呼ぶだけの「そもそも論」ばかりでした。
まずは、「ジョブ型人材マネジメント」とより広い「ジョブ型雇用」の話を区別しなければ、まともな議論の入り口にも立てないーー。これが、筆者が『日本的ジョブ型雇用』(2021年、日本経済新聞出版)をはじめとする著作などを通じて、3年間言い続けたことでした。
雇用の全体システムの理念型として示された「ジョブ型雇用」と、企業が実践する「ジョブ型要素の強い人材マネジメントの諸制度」(原則ポスティング、職務記述書、職務給、職務等級など)の話を区別しなければ、どんな議論をしようが、余計な枝葉がくっついてくることばかりでした。