• 「脱・終身雇用」の掛け声の下、ジョブ型やリスキリングなど、社員に「キャリア自律」を求める人事施策がブームとなっている。
  • だが、キャリア自律を叫ぶほど、人事部も社員も、どこか「モヤモヤ感」が募るのはなぜか。社員を囲い込みつつ自律を促すという、そもそもマッチポンプ的な歪んだ構図がそこにある。
  • 中高年の膨らむ人件費を削減したいという会社側の思惑で「意識改革」だけを促しても一貫性に乏しい。キャリア自律を求めるなら、会社側には「人事権」を手放すほどの覚悟が必要だ。(JBpress)

(小林祐児:パーソル総合研究所 上席主任研究員)

【連載】
第1回:「仮面夫婦化」する会社と個人、転職・副業・リスキリング・・・ぜんぶ幻想
第2回:失敗だらけの「パーパス経営」、社畜の心も離れトップダウンにしらけムード

「キャリア自律」ブームの裏で

「キャリア自律」施策が花盛りです。自律したキャリア構築を求めるようになってきました。

 世間で叫ばれる「脱・終身雇用」の掛け声は、バブル崩壊前から景気が良くなるたびに現れる定番文句ですが、「キャリア自律」は明確に近年のトレンドです。キャリアが長期化するとともに中高年従業員の人件費が重くなってきた日本の大手企業は、自律的なキャリア支援、という要素を人材マネジメントの各所にビルトインしていくようになりました。

(写真:アフロ)

 自身のキャリア全体を意識し、転職情報などを積極的に取り入れて学びや行動に反映していくという意味で、キャリア自律のような考え方は確かにこれから必要なものです。一般的な労働者として自分のキャリアは自分で守り、育てていく必要が高まっているのは間違いありません。

 しかし、雇用主である「企業」の側が、自社の従業員にキャリア自律を求めるというのは、ずいぶんと歪んだ光景です。しかも残念なことに、その「歪み」の感覚を会社側が持たないまま、トレンドに乗って「意識改革」といった啓蒙施策ばかりが行われています。キャリア自律の「モヤモヤ」の正体をきちんと考える必要があります。