人間の頭脳は(今のところ)必要である

 むしろファイヤーホース方式の問題点の中で、私がより検討に値すると思うのはボット問題である。SNSにはボットと呼ばれる、自動的に投稿をするロボットアカウントが存在する。あるキーワードやハッシュタグがあるタイミングで一気に拡散されたことがわかった場合、不自然な増え方をしていないかどうかその発信元を調べることでボットの存否を明らかにできる。ボットは人間が見たら明らかにボットだと判断できるケースが多いが、AIは意外とボットの判断が苦手である。

 上記に紹介した以外にもSNS分析には様々な手法がある。今回は国際政治分析を目的とした場合の手法を紹介したが、マーケティング目的のSNS分析では全く異なる手法が用いられるらしいことを、最近(よく知らないYouTuberの怪しい)YouTube番組で学んだ。結局は、目的とその手法が合っているかどうかが最も重要なのだ。

 研究者はまずリサーチ・クエスチョンを思いつき、それをどのようなクエリ(処理要求)にすればコンピューターが理解できるかを考え、コンピューターに命令する。そこまでが人間の仕事で、あとはコンピューターが出力するだけである。ChatGPTに代表されるような生成AIの基礎であるLLM(大規模言語モデル)技術の発展のおかげで、コンピューターは人間の自然言語をより理解できるようになったが、洗練された「お題」を設定するのはなお人間の領域である。人間の頭脳は(今のところ)必要だということである。

 ところが、作業を進めていくなかで、思いもよらない事態が発生した。「SNSデータは誰のものか?」を問いかける後編は、新潮社フォーサイトのページでお読みください。
紛争研究に「SNS分析」を導入した国連職員の挑戦(後編)|データ有料化の衝撃

高橋タイマノフ尚子
(たかはしたいまのふなおこ) 国連政務官。専門は武力紛争、平和維持。2019年には国連で初めて最新テクノロジーやAIを活用した紛争分析、解決を専門に扱う新チーム「イノヴェーション・セル」を国連政務・平和構築局内に立ち上げた。上智大学外国語学部ロシア語学科、米国コロンビア大学国際公共政策大学院卒。ロシア語、英語に堪能。

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