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国際連合本部ビル(写真:ロイター/アフロ)

(文:高橋タイマノフ尚子)

海外留学に行く日本人学生は、ここ10年で約3倍に増えたという。一方で、国際機関で働く日本人は微増にとどまる。東大生の就職希望先でも外資系企業が上位を占める昨今、なぜ国際公務員を志望する若者は増えないのか。自己イメージの刷新にも挑む「イマドキの国連」を、現役の日本人職員がレポートする。

「国際機関で働く日本人って減っているんですか?」とたびたび聞かれるが毎回答えに窮している。というのも、部署や役職によって状況は大きく異なるからだ。

 例えば、かつて私が旧ソ連圏の紛争を担当していた際は、ロシア語が必須な部署だったせいか日本人はおろか自分が部内唯一のアジア人オフィサーだった。ちょっと寂しかったが、それはロシア語を専攻してしまった大学時代の自分を責めるとする。他の組織や部署でも、現場経験や言語など個々の採用条件によって結果的に職員の出身国・地域の偏りが生じることはありうるので、この例とは逆に日本人が多く活躍する部署もあろう。

就職先として国際機関の魅力がないのか

 むしろこの質問がどこから来たのかを考えたところ、どうやら日本では他国と比較して国際機関における日本人職員数が伸び悩んでいるという論調があるようだった。国籍のラベリングはあれども、私個人としては、素質があるのに地理的、人種的、文化的ハードルなどで報われてこなかった人たちが正しく評価される環境づくりが理想的だと考える。そういう意味で、これらのハードルをいくつか抱えている可能性の高い日本人の国連での活躍の増加が、国連内のダイバーシティ促進や人種差別撲滅の一助になれば素晴らしい。

 ということを考えながらデータを見ていたら興味深い数字に直面した。国連をはじめとする国際機関で働く日本人の数は、2009年から19年の10年間で1.3倍と微増にとどまる一方で、日本人学生の海外留学はなんと同期間で約3倍にも増加したらしい。その波及効果で国連への就職が増えても良さそうなものの、就職先として国連がそれほど選ばれていないのは、どういう理由だろう。仮説を考えてみた。

1、応募のハードルが高いと思われている。
2、労働環境が悪いと思われている。
3、そもそも人気がない。

 修士号が必要、英語に加えてもう一言語、など採用の壁の高さは幾度となくメディアで言及されており、それで思いとどまる人も多いのかもしれない。実際は、応募の方法や必要な準備については外務省や多くの教育機関、市民団体が詳しい知見を共有している。何が必要かわかった時点で問題は大方解決できたようなところもあると思うので、応募のハードルが著しく高いとは言い難い。

 労働環境については、給料は国際公務員委員会で公開されている通り決して低くない。育児休暇など福利厚生も充実している。また、以前は日本人にとって国連に「転職」しなくてはならないという点が心理的負担だったかもしれないが、日本でも労働市場の流動化に伴い転職が一般化してきており、もはやそれほど厄介でもないだろう。すると、別の問題があるのではないか。

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