(文:佐藤健太郎)
地球環境に優しいプラスチック利用は急務だ。分解技術の研究が進む一方、植物のセルロースを使ったカーボンニュートラルな代替素材も注目される。また日本がリードする新たな「窒素固定技術」は、人類のエネルギー消費削減に大きく貢献する可能性がある。
2022年、医療・材料・化学分野での注目トピックを紹介する後篇。医療分野の注目トピックは前篇で紹介した。
医薬品の新たな方向性「モダリティの多様化」とは
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68390
熱い注目を集めるプラスチック分解技術
海洋プラスチック汚染は、現代の環境問題における大きな焦点となっている。また石油資源に依存しない、カーボンニュートラルなプラスチック生産も、ニーズの高い技術の一つだ。
これらを解決するため、プラスチック分解技術の開発が進められている。最も盛んに研究されているのは、ペットボトルの素材であるポリエチレンテレフタレート(PET)の分解技術だ。PETはプラスチックの総生産量の約10%を占め、繊維とすれば衣服の素材にもなる。PETそのままの状態でのリサイクルも行なわれているが、品質の低下は避けられず、用途は限られる。効率よく部品の状態に分解した上で再合成すれば、新たに石油資源を消費することなく高品質なものが得られる。また、PETはエステル結合と呼ばれる切断しやすい結合でできているため、分解は比較的容易だ。
分解方法として、静岡大学のグループは天然の酵素を改変して耐熱性にすることで、効率よくPETの分解を行なえることを示した。また産業技術総合研究所の研究グループでは、PETを水と300度、10分間反応させるだけという簡便な条件で、分解が行なえることを示している。
より難度が高いのは、ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用プラスチックの分解だ。これらは全体が切断されにくい炭素―炭素結合でできており、溶解もしにくいので、PETより数段分解は難しい。しかし排出されるプラスチックの大半はこれらポリオレフィン系であり、その分解およびリサイクル技術の開発は急務だ。
東北大学と大阪市立大学の共同グループは、ルテニウムと酸化セリウムを触媒とし、ポリエチレンの分子鎖を短く切断できることを報告した。これまでの方法に比べて低温・低圧で反応し、効率も高い。こうした研究は日本の強みとするところでもあり、展開に期待したい。
また、PETを分解する細菌が、ペットボトルのリサイクル工場から発見されたことが話題になった。最近スウェーデンのグループが世界の細菌のゲノム解析を行なったところ、10種類のプラスチックを分解できる、3万種もの酵素が発見されたという。これは、プラスチック汚染の拡大に対応して、細菌たちがこれを栄養源にできるよう進化したことを意味する。事態の深刻さを示すことでもあるが、こうした細菌を発見・改良することで、プラスチック分解を効率的に行なえる可能性があるということでもある。この方面の研究が、今後おそらく盛んになることだろう。
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