国際平和のために働くことが流行ってない?

 突然だが私はインラインスケートが趣味だ。趣味に精が出すぎて海外遠征したり、インストラクターの資格を取ったりしていたら、昨年とうとうNY最大のストリート・スケートコミュニティの運営委員に就任してしまった(ちなみに仕事では出世していない)。

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 インラインスケート文化というのは90年代がピークで、その後は長らく自分を含む一部のニッチなファンが細々と文化を繋いできていた。転機は2年前、昨今の90年代ブームとコロナによる娯楽消失の相乗効果か、NYのスケーター人口が倍以上に膨れ上がった。増えたのは主にZ世代。SNSでバズるようになり、雑誌やテレビなど一般メディアでも我々の存在が知られるようになった。イベントがより多く開催され、今までどこにいたんだと思うようなスキルの高いスケーター人材も発掘された。彼らが地方や海外の大会で賞を取るなど、NYのスケート文化は大盛り上がりを見せた。インラインスケートは「イケてる」スポーツとして30年ぶりに返り咲いたのだ。

 このようなスポーツの激しい盛衰を肌で感じながら考えたことがある。人材「増強」のためには全体のパイを増やし、スター人材を強化し、そのふたつをつなぐキャリアアップの機会を提供する必要がある。それらの施策をとる一方で、どうしても外部要因としての「流行り」とか「文化」の影響を受けるのは否めない。海外留学に行く日本人が増えていて、優秀な人材が多く輩出されており、国連職員という職業自体の就労環境は悪くない。にもかかわらず就職先として国連が選ばれないのは、もしかして、「国際平和のために働くことはそんなに流行ってない」ということになってしまっているのだろうか。

国際課題の流行、72年分を分析した記事が

 国連そのものへの好感度に関しては、世界でも日本でも多少上下はあるものの、ここ20年で大きな変化は見られない。他方、国連の扱う課題の中でひとびとの関心や優先事項が時代によって変化するのは、国連としても経験してきている。

 例えば、昨今の国連の優先課題といえば「SDGs(持続可能な開発目標)」だが、2019年にアルジャジーラ通信が過去72年分の国連総会決議を分析した結果によると、実はSDGsを含めた「Development(開発)」というキーワードが国連の重要課題になったのは60年代―70年代に数回のみで、特に顕著になったのは2016年以降だ。

 国連創設時の最優先課題は、憲章にもあるように戦争の防止だったが、その後50年代―60年代には「Colonialism(植民地主義)」がホットトピックとなり、80年代―90年代は「Arms Control(軍備管理)」だった。興味を持った方は、元記事(https://interactive.aljazeera.com/aje/2019/how-has-my-country-voted-at-unga/index.html)もおしゃれで可愛いのでぜひご覧になって頂きたい。要は、この激しい移り変わりを見るに、国連創設の基礎理念である「国際平和」そのものが流行でなくなるのは非常に残念だがありうることだと言える。

 いや、平和という概念が変化しているのだ、多くの若者は国際平和よりも国内の生活に平和の要素や課題を見出しておりそれらをローカルに解決する方向に人材が流れているのだ、という仮説も大いにあり得る。素晴らしいことだ。でも国際平和の方もぜひ流行ってほしい。

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