テイコウ虫の鳴き声は「Yes」が小さく「But」は大きく。キラキラした改革のスローガンに集まり群をなして抵抗する(イラスト:きしらまゆこ)
  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOCの第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 第8回は「テイコウ虫」。経営改革が始まると、「Yes, but…」を大合唱。群をなして「抵抗勢力」とレッテルを貼られる場合もあり、組織を分断、崩壊に導く可能性がある。
  • だが、実はテイコウ虫は変革が進むにつれて顕在化する懸念事項を教えてくれる益虫にもなる。どういうことか? 

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:テイコウ虫
職場へのダメージ:★★★☆☆
主な生息地:「変える」という言葉の周囲。“Yes, but……”という鳴き声が聞こえるので発見は容易である。特にキラキラしたスローガンを伴う経営改革や行政改革の渦中に大量に集まることが知られている。
特徴:「変える」という言葉を嫌い、抵抗する。群れを成すことが多く、その群れは「抵抗勢力」と呼ばれる。危険なのは 「抵抗勢力」と周囲からレッテルを貼られると、さらに激しく抵抗する習性がある。テイコウ虫が大発生した組織では変革が頓挫し、組織そのものが瓦解(がかい)する恐れもあるので注意が必要である。
>>他の害虫(イラスト)を見る(連載未登場の害虫は次回以降、解説していきます)

「変える」という言葉を嫌う「テイコウ虫」

 Yes, but……(その通りだと思いますが、しかし・・・)

 もし、そんな声が聞こえてきたら、そこには「テイコウ虫」が潜んでいる可能性が高い。テイコウ虫は、「変わる」という言葉を嫌い、変化が求められる新しいアイデアや提案に敏感に反応する。特に、経営改革の場面において、キラキラとしたスローガンとともに「変わる」という声明が経営幹部から発せられると、光に集まるガのごとく群れをなし、抵抗する。
 
 テイコウ虫の群れに「抵抗勢力」というレッテルが貼られようものなら、事態はより深刻になる。テイコウ虫は徒党を組んで組織を分断し、変革推進派と徹底的に対立する。組織は停滞し、事業の業績が急降下することさえある。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。

 テイコウ虫が得意なのは「うまくいかない理由」を次々と挙げることだ。変革派はいら立ち、強引に変革を進めようとする。それがさらにテイコウ虫に栄養を与えることとなり、増殖させてしまう。最悪の場合、変革が頓挫し、組織そのものが危機に陥る。

「生き残るのは変化する者」に激しく反応

 大きな群れを成したテイコウ虫を一掃するために、一般に広く使われる武器は偉人の言葉の引用だ。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一生き残るのは、変化する者である」

 誰もが知るダーウィンの言葉だが、そんな偉人の言葉を振りかざしても「テイコウ虫」には全く効き目がない。テイコウ虫はそんなことはとっくの昔から知っていて、すでに耐性を備えているのだ。