「7つの誘惑」と言われる甘いにおいを放つ呪術を使い、予算を食い物にして際限なく増える「カネクイ虫」(イラスト:きしらまゆこ)
  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints=制約理論)の第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 第7回は、「7つの誘惑」と言われる甘いにおいを放つ呪術を使い、予算を食い物にして際限なく増える「カネクイ虫」。無駄遣いを横行させ、無駄な仕事も増やす恐ろしい極めて害虫だ。
  • DXなどの変革ブームはカネクイ虫の栄養となり、急速に増える懸念がある。目先の課題に惑わされ対症療法に終始せず、根本的な問題の原因を探り解決する必要がある。(JBpress)

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:カネクイ虫
職場へのダメージ:★★★★★
主な生息地:政府、政治家、国会、行政、自治体などに多く見られる。最近は民間企業でも官僚的な予算管理をしている組織に広がっている。
特徴:「7つの誘惑」と言われる甘いにおいを放つ呪術を使い、予算を食い物にして際限なく増えるのが特徴。「もっとお金を」「もっとテクノロジーを」「もっと組織変更を」「もっと研修とコミュニケーションを」「もっとデータを」「もっと責任の明確化を」「もっと戦略的計画を」という、7つの「もっと」を環境に合わせて使い分けながら鳴き続ける。特に、国や地方自治体の選挙、民間企業の予算シーズンに増殖することが知られている。「カネクイ虫」が大量発生すると、予算を無駄使いのみならず、仕事が際限なく増え、最悪の場合、組織を機能不全に陥らせる。
>>他の害虫(イラスト)を見る(連載未登場の害虫は次回以降、解説していきます)

「7つの誘惑」という呪術

「もっとお金を」「もっとテクノロジーを」「もっと組織変更を」「もっと研修とコミュニケーションを」「もっとデータを」「もっと責任の明確化を」「もっと戦略的計画を」…。

 あなたの周囲で「もっと」「もっと」と連呼する声が聞こえてきたら、そこには「カネクイ虫」が潜んでいる可能性が極めて高い。カネクイ虫は「7つの誘惑」という甘いにおいで人を引きつける恐ろしい呪術を使う。

(写真:Monster Ztudio/Shutterstock.com

 その7つの誘惑とは、「お金」「テクノロジー」「組織変更」「研修とコミュニケーション」「データ」「責任の明確化」「戦略的計画」だ。これらを巧みに組み合わせて「もっと、もっと」と鳴き、より多くの予算を要求して際限なく増えていく。問題なのは、「予算さえ使い切れば、結果は問わない」という、もはや生活習慣病ともいうべき病が組織に蔓延(まんえん)していると、深刻な合併症状を引き起こすことだ。

「予算さえ使い切れば、結果は問わない」という生活習慣病の恐ろしさは言うまでもないだろう。たとえ結果には結びつかないと誰もがわかっていても、予算は執行され、全部使われてしまう。こんなぬくぬくした環境はカネクイ虫にとっては最高の棲み家だ。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。

 昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームもあり、「とにかく変革」という風潮が広がっており、カネクイ虫が放つ7つの誘惑に経営層はすぐに負けてしまう。すると、ただでさえ忙しい現場はやることがどんどん増えてしまう。万一、予算を余らせてたら「ちゃんと取り組んだのか」と上層部から非難を浴びるのは明らかなので、現場は「マルチタスク虫」だらけになる。予算を使い切ることだけに力尽きてしまうケースもあり、組織が機能不全に陥るリスクが高い。

 最悪の場合、なんとしてでも予算を使い切らなければとの意識が不正を誘発し、世間や社内を揺るがすスキャンダルに発展する。厳重な注意が必要だ。