「デジタル、デジタル」とやかましく鳴き、キラキラした羽が特徴の「DXアオリ虫」(イラスト:きしらまゆこ)
  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOCの第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 第4回は「DXアオリ虫」。IT・コンサル会社には莫大な利益をもたらし、バズワード好き経営層にも大量発生している。だが、多くは経営変革に結びつかず、妨げにもなりかねない。
  • 本来、DXは時代の変化に対応するためのもの。部分最適のデジタル活用から脱する必要がある。

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:DXアオリ虫
職場へのダメージ:★★★☆☆
主な生息地:IT会社、コンサル会社、企業のIT部門、新しいバズワードが好きな経営幹部、マスメディア、行政、政府など
特徴:「デジタル、デジタル」と鳴き声を連呼し、キラキラとした羽が特徴で、腹が黒く、発見は容易。主な被害として、デジタル化は進んだが肝心の変革は一向に進まない、お金のムダ遣いなどがある。一部の業界では害虫ではなく、会社をよくする特効薬を生み出す「益虫」として繁殖・販売されており、膨大な収益をもたらしている。現実のフィジカル空間世界だけでなく、ネットやeメール、SNSなどのサイバー空間を通してあらゆるところに忍び込むのがやっかいな害虫である。
>>他の害虫(イラスト)を見る(連載未登場の害虫は次回以降、解説していきます)

会社をキラキラさせる「DXアオリ虫」

「うちの会社、デジタル化は進んだけど、肝心のトランスフォーメーション(変革)はできたのだろうか?」

 こんな疑問を持っているなら、「DXアオリ虫」があなたの職場に忍び込んでいる可能性が高い。DXアオリ虫が職場に現れると、デジタル人材教育などが熱心に行われたり、「ペーパーレス化」というスローガンの下で様々な業務のデジタル化が検討されたりする。

(写真:Song_about_summer/Shutterstock.com

 またたく間に社内のあちこちで繁殖し、あっという間に経営方針にまでキラキラとしたDXの文字が躍るようになる。「DX推進室」のような部署ができることもある。こうした部署がさらにDXアオリ虫を増殖させ、社内を混乱に陥らせることが報告されている。

 DXアオリ虫の多くは業務のデジタル化(D)を得意としている。だが、実務経験に乏しく、肝心の変革(X)は苦手だ。「DX研修」と称した社員教育プログラムに変革(X)の要素が入ってないケースも多い。

(写真:masamasa3/イメージマート)

「まぬけ」という言葉を広辞苑で調べると「することにぬかりがあること」とある。変革の要素がないDX研修は「まぬけなDX」を職場に広め、デジタル化=DXとの勘違いを蔓延(まんえん)させる。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。