責任感に起因する不安を栄養源に増殖する「サバヨミ虫」(イラスト:きしらまゆこ)
  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOCの世界的第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 第3回は「サバヨミ虫」。納期を守れないという不安から、一人ひとりが必要以上のサバを見積もってしまい、結局、プロジェクト全体で納期が遅れるという悪循環が発生する。
  • だが、サバを読むのは「納期を守りたい」という責任感の裏返し。サバの持ち方を工夫すれば、プロジェクトは劇的に速く進む。

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:サバヨミ虫
職場へのダメージ:★★★☆☆
主な生息地:不確実性の高いプロジェクト
特徴:人の心の中にある責任感を好み、それを栄養源にして急速に増殖する。主な被害として、納期遅れ、予算超過、プロジェクトの収益の悪化など。「サバヨミ虫」が大量発生しているところには、「シーエー虫」「マルチタスク虫」も同時発生することがあるので早期の対策が必要である。
>>他の害虫(イラスト)を見る(連載未登場の害虫は次回以降、解説していきます)

「サバヨミ虫」が引き起こす深刻なダメージ

「なんとしても納期を守らなければならない」

 不確実性の高いプロジェクトにおいて、納期を守らなければならないプレッシャーがかかると、そこには「サバヨミ虫」が潜んでいる可能性が高い。サバヨミ虫が発生すると、プロジェクトメンバーは仕事の見積もりにサバを読み、必要以上の期間を見積もるようになる。それが納期遅れの温床となっていく。プレッシャーが大きいほど、サバヨミ虫は急増することが知られている。

(写真:アフロ)

「サバヨミ虫」は人の心の中にある「責任感」を好み、責任感が強い人が多い組織ほど大量発生する。そのメカニズムを理解するために、クルマで1時間かかる空港に人を迎えに行くシーンを考えてもらいたい。

 友人を迎えに行くのなら、1時間半くらい前に家を出れば十分だろうと考えるだろう。会社を代表してVIPを迎えに行く場合はどうか? 渋滞などで万が一にでも遅れたら、自分だけの責任では済まない。会社の責任になる。

(写真:アフロ)

 その場合、何時間前に家を出るだろうか? 2時間前? 空港の駐車場が一杯で駐車できないケースなどを考えると、3時間前に家を出た方が良いと考えるかもしれない。いや、空港のどの出口から出てくるのか、どうやって駐車場までエスコートするのかなどと考えると、前日に乗り込んで下見しておいた方がよいかもしれない・・・。

 こうした違いはどこから来るのか? 友人ならば多少遅れてもゴメンと謝れば済むが、VIPならそうはいかない。決して遅れてはならないという責任感が強く、不確実性が大きいほど、人はより多くのサバを読むのだ。
 
 1人でサバを読む場合は影響は少ないかもしれない。しかし、多くの関係者が関わるプロジェクトにおいては、サバヨミ虫の被害は甚大になる。

 プロジェクトの納期が間に合わない事態が頻発するようになると、一般的には進捗管理の強化が対策として実施される。しかし、これがさらなる悲劇を招きかねない。会議や報告書が増え、サバヨミ虫だけではなくマルチタスク虫やシーエー虫まで増殖しかねない。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。