正規・非正規の区別なく働く時間を選べる

 ドイツのマクドナルドでは、6万5000人が1450の店舗で働いている。日本同様、町でよく見かける人気のファストフード店である。グローバル・チェーンなので、メニューもほとんど同じで味も変わらない。セット・メニューやドライブ・スルーがあり、最近は配達サービスやモバイルオーダー、タッチパネルオーダーも増えている。

 違いがあるとすれば、日本よりも従業員が多国籍であること、販売促進など顧客への言葉かけが少ないところ、ベジタリアン・ヴィーガン対応商品が多いところ、環境への配慮に関するパンフレットが以前から多いところなどであろう。

(写真:アフロ)

 とはいっても一見した限り、ドイツも日本も同じマクドナルドであり、スタッフが働いている様子もさして変わらない。ところが、スタッフが働く仕組みは、外見の印象とは異なり、日本と全く違っている。いったい何が違うのか。

 ドイツのマクドナルドが日本と最も大きく異なるのは、正規・非正規の区別がない点である。スタッフの誰もが自分の働きたい時間を自分で選べるが、それによって処遇格差は生じない。フルタイムで働く人も、週20時間だけ働く人も、全員が同じ給与表にもとづいた給与が支払われる。

 どういうことか、もう少し具体的に説明しよう。

 ある店舗がスタッフを募集する時には、働く時間別に、「フルタイム」「パートタイム」「ミニジョブ」という3つの選択肢を用意する。ミニジョブというのは、月520ユーロ(およそ8万円)以下の収入内で働く、社会保険料負担が免除される働き方である。日本の「扶養範囲内」で働く仕組みと似ており、日本の「アルバイト」のイメージに近い。

非正規のパートでも正社員待遇

 これだけ聞くと、日本と同じように、フルタイムの正社員がいる一方で、非正規のパートとミニジョブのアルバイトがいるではないか、という理解になりそうである。しかし、そうはならない。というのも、全員が同じ給与表にもとづいて支払われ、同じようにボーナスや諸手当を支給されるからである。法律で規定されたミニジョブの社会保険料免除をのぞくと、基本的に処遇が全員同じなのである。給与やボーナスの金額は、所定労働時間の中で何時間働くかという、労働時間の割合を掛けて簡単に計算される。

 つまり日本的に言えば、全員が正社員の待遇で働いている。働く時間数が違っても、労働条件・待遇は同じということである。

 自分の希望や家族や個人的事情によって、フルタイムで働きたいか、もう少し短い時間で働きたいか(パート)、週に10時間ほど働きたいか(ミニジョブ)を自分で決める。どのくらい働きたいか、働けないか、どのくらい稼ぎたいか、どのくらいこの仕事にかかわりたいかを自分で考える。そしてその分類で応募する。

 フルタイムで働く人も、事情が変わってもっと短く働きたいと希望すれば、働く時間を短くすることができる。逆に、数年間だけ短く働いて、その後またフルタイムに戻るということもできる。これらはすべて法律で定められている。働き方、働く時間を働く人が自分の都合や希望で決められることが、マクドナルドで働く前提になっているわけである。 

 働く時間がどのくらい長いかによって、労働条件・処遇が差別されることはない。ドイツ・マクドナルド社は「チーム仕事」「多様性」という言葉の下で、さまざまな労働時間の長さで働く人々、さまざまな国籍・個性をもった人々を現場でうまく組み合わせていくことの意義を強調する。このコンセプトは日本のマクドナルドでも強調されていることであり、店舗におけるアルバイト・パートのシフト調整の仕組みはドイツと全く同じである。ただし唯一違うのは、日本ではアルバイト・パートの給与・処遇が正社員とは別枠で低く設定されていることである。