医療従事者は「エッセンシャルワーカー」としてコロナワクチン接種も優先された(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • 私たちが日常生活を営む上で不可欠な仕事に従事する人たち=エッセンシャルワーカーが、コロナ禍で大きな注目を集めた。
  • その多くは報酬が低く、劣悪な労働環境にある。一方、コンサルティングなど「特になくてもかまわないが報酬の高い」仕事もある。いわゆる「ブルシット・ジョブ=クソどうでもいい仕事」だ。
  • この不均衡を是正するにはどうしたらよいのか。筑波大学人文社会系教授の田中洋子氏が上梓した『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)から一部抜粋する。

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 これまでもスーパーマーケットの従業員やトラックの運転手は、毎日当たり前のように社会を支えてきたが、その仕事の重要性が社会に明確に意識されることはほとんどなかった。2020年の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大への緊急対策として社会経済活動に大きな制限が課される中、初めて、現場で働き続けるこうした人々がいるからこそ、私たちの生活が維持されているということの大切さが認識されたのである。

 これらの人々は、世界各国で、エッセンシャルワーカー、フロントラインワーカー、社会システム関連労働者、必須労働者などと呼ばれ、「日常生活になくてはならない仕事をする人」として注目を集めていった。

 日本でも、政府・厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(2020年3月)の中で、緊急事態宣言下でも事業継続が求められる分野として、医療体制の維持、支援が必要な人々の保護、安定的生活の確保、社会の安定維持を担う事業をあげた。具体的には「社会機能維持者(エッセンシャルワーカー)」として、医療、高齢者・障がい者支援、飲食料品・生活必需物資の供給、小売、生活サービス、ごみ処理、メディア、金融、物流・運送、行政、育児関連で働く人々などがあげられた。

田中洋子(たなか・ようこ)
筑波大学人文社会系教授。東京大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。東京大学経済学部助手、筑波大学社会科学系専任講師、准教授をへて2008 年より現職。ベルリン・フンボルト大学国際労働史研究所フェロー(2015-16 年)、ハーバード・イェンチン研究所招聘研究員(2017-2018 年)。専門はドイツ社会経済史、日独労働・社会政策。主な著書は『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)、『ドイツ企業社会の形成と変容―クルップ社における労働・生活・統治』(ミネルヴァ書房)(社会政策学会奨励賞、冲永賞受賞)など

 これらの人々は、現場で社会に必要不可欠な仕事をしているということ、これらの仕事が行われないと基礎的な社会機能の維持が難しくなることが公式に認定されたわけである。これらの仕事が日々滞りなく行われるおかげで、私たちの生活が無事にまわっているということが初めて意識されるきっかけとなったと言える。