知られていない働き方の実態

 こうした疑問にこたえようとすると、すぐに大きな問題に突き当たる。それはエッセンシャルワーカーの働き方がほとんど研究されていないという現実である。

 小売業をはじめ個別の業種についての研究はもちろん存在する。しかし、さまざまな業種で働くエッセンシャルワーカーの中には、全くといっていいほど調査・研究が行われていないものもある。エッセンシャルワーカーの働き方の特徴を包括的に検討して論じた研究も見当たらない。その結果、これらの人々の仕事や処遇、働き方の条件がどうなっているのか、そもそも解明されていない状況になっているのである。

 なぜ研究が進んでいないのか。考えられる理由の一つは、エッセンシャルワーカーが国際競争力や大きな利益と関係していないことにあると思われる。

コロナ禍では自衛隊の「プルーインパルス」が飛行し医療従事者に感謝の意を表したが・・・(写真:長田洋平/アフロ)

 これらの仕事は、日本経済の貿易黒字を叩き出すような産業ではなく、また投資によって大きな利益が出るタイプの業種でもない。最先端技術の担い手ではなく、大規模な見本市もない。エッセンシャルワーカーは、私たちの日々の生活を着実に支える、社会の潤滑油のような存在であり、派手に人の目をひくことも、金もうけの手段として注目されることもほとんどない。そのために人々からあらためて目を向けられてこなかった。

 もう一つの理由は、私たち自身がこれらの仕事や働く人々をすでに「知っている」と感じていることにあるかもしれない。日常的に直接サービスを受けることが多いため、私たちは確かに働き方をある程度知っているし、仕事内容やその質を評価できることも多い。

 しかし、私たちが見ているのはあくまで表面に見える部分でしかない。それらの人々が実際にどのような条件で働いているのかについては、外側から見ただけではわからない。