ドイツのマクドナルド(写真:AP/アフロ)
  • なぜ、社会に不可欠な「エッセンシャルワーカー」は低賃金で働かされているのか。その実態を筑波大学人文社会系教授の田中洋子氏が解き明かす。
  • 後編は正規/非正規雇用の区別がないドイツのマクドナルドを分析。そこではパートも含め全ての従業員が「正社員」待遇だ。
  • 働く時間数が違っても、労働条件・待遇は同じ。正規/非正規で給与などの待遇差が大きい日本企業とは対照的だ。『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)から一部抜粋する。

>>前編:なぜエッセンシャルワーカーの給料は安く、“ブルシットジョブ”は高いのか?

 日本の飲食店では、低い時給で働くアルバイト・パート中心に店を動かすことが常識になっているが、それは世界的にみると決して当たり前のことではない。

 非正規雇用を使って人件費を下げないと、店も企業も利益が出せない、と日本では考えられ、その中でいかに非正規のやる気を上げて働かせるかが経営課題として認識されている。しかし、日本では当然の前提となっているこの働かせ方・働き方は、世界で一般的なものではない。正社員と区別された低賃金の非正規雇用を使わなくても、問題なく店舗は運営される。店の業績も良好である。そういう状況が存在しているのである。

 このことが最もはっきりするのは、グローバル展開している外食チェーン店の場合である。世界中で同じロゴのもと、外食チェーンは同じような店舗で、同じような商品・サービスを提供し、同じような利益を出している。しかし、それにもかかわらず、店舗の運営が日本と全く違う形で行われ、そこでの人の働き方も全く異なる状況があるからである。

 非正規雇用を使わない店舗運営が当たり前であり、それでも特に問題なく経営ができている現実があることを認識することは、非正規雇用中心の店舗経営となっている日本のやり方を見直す意味をもつだろう。

田中洋子(たなか・ようこ)
筑波大学人文社会系教授。東京大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。東京大学経済学部助手、筑波大学社会科学系専任講師、准教授をへて2008 年より現職。ベルリン・フンボルト大学国際労働史研究所フェロー(2015-16 年)、ハーバード・イェンチン研究所招聘研究員(2017-2018 年)。専門はドイツ社会経済史、日独労働・社会政策。主な著書は『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)、『ドイツ企業社会の形成と変容―クルップ社における労働・生活・統治』(ミネルヴァ書房)(社会政策学会奨励賞、冲永賞受賞)など

 このことをドイツのマクドナルドを取り上げて見ていく。グローバル・チェーン店として、ドイツのマクドナルドは日本の店と同じに見える。にもかかわらず、そこでは日本とは全く異なる店舗運営が行われている。そこでの働き方はいったいどういうものなのか。店をまわす仕組みはどのように日本と違うのか。働く人の給与はどう決まっているかを探っていく。

 さらに、日本の非正規としての学生アルバイトとは異なり、ドイツでのマクドナルドは、学生・生徒に、きちんと規定された給与を保障しながら、飲食業界・企業に即した専門教育を与える職業教育の場を提供している。「若者の『使い捨て』が疑われる」企業を多く抱える日本の飲食業とは対照的に、若者にしっかり投資し、教育し、彼らとともに飲食・外食業界の持続性を確保しようとする動きがドイツで展開していることも見ていこう。