奈良のシカにエサをやる観光客(写真:AP/アフロ)
  • 虐待疑惑に揺れる国の天然記念物「奈良のシカ」は、農家にとっては害獣ともいえる。「金属バットで畑を荒らすシカを殴る農家もいた」との声もある。
  • 奈良のシカをペットだと勘違いする住民・観光客によって人間の食べ物に慣れらされ、中には凶暴化するシカもいる。
  • 奈良市民が一千年以上にわたって共生してこられたのは、「神の使い」として大切に扱う為政者や住民の信仰心があってこそ。「神鹿」(しんろく)と人との関係は岐路に立たされている。

(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)

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「神の使い」に怒りを爆発させる農家

「奈良市の農家にとっては、シカさんははっきり言うていらない存在なんです。一生懸命育てた野菜や米を食うんですから。新規就農者の中にも『もうシカに農作物を食い荒らされて限界です』と言うて辞めていかはった人もいます。(シカに対する怒りのあまり)金属バットでシカをボコボコにした(農家の)人も、シカの頭を6頭分に切って(頭を)川に流した人もおるくらいですよ」

 虐待疑惑に揺れる国の天然記念物「奈良のシカ」について、そう語るのは中西康博氏だ。奈良の鹿愛護会の保護施設「鹿苑」内にある「特別柵」で飼育されていたシカが、虐待されていたのではないかとの疑惑が浮上し、県や市も巻き込んだ騒動になっている*1。特別柵は、農作物を食い荒らしたり、人を攻撃したりしたシカを死ぬまで収容するエリアだ。そこのエサの量やスペースの狭さなど、飼育環境が不適切だったのではないかと指摘されている。

*1奈良シカ虐待、県「あったか判断できず」、専門家「痩せているから、は拙速」

 中西氏は奈良県の行政機関である「奈良公園室」で室長を務め、現在は一般社団法人奈良県ビジターズビューローの専務理事。 役人時代に数々の奈良のシカ関連の外部委員会を立ち上げるなど、「シカファースト」の人物として地元で知られている。

 中西氏は奈良公園室長時代、被害農家との交渉を引き受けた経験から、「神鹿」と「害獣」の抜き差しならぬ関係を熟知している。奈良のシカをこよなく愛するがゆえに、今回の虐待疑惑に困惑気味だ。

奈良のシカ(写真:湯浅 大輝)

「シカさんがかわいそうや。外野に好き勝手に『虐待』と言われて。元はと言えば、奈良のシカとの付き合い方を知らん奴が増えたから、こういう窮状にシカさんが追い込まれている」(中西氏)