国連とはどのような組織で、どのような形で世界に影響を与えているのか。戦争を止めることのできない国連に存在意義はあるのか。日本は国連にどのように関わるべきなのか──。
知っているようであまり知らない、外からは見えにくい国連という組織について、外務省やシンクタンク、国連職員など様々な立場から国連に関わってきた水田愼一氏と、官民のルール形成や人権・サステナビリティの分野で独自のポジションを築いているオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介CEOが語り合う対談の第4回。今回は日本人のグローバル志向について。
※肩書は本対談を実施した2023年8月時点。水田氏は外務省、シンクタンクに勤務した後、2011年から2020年まで国連職員としてアフガニスタン、ソマリア、リベリアに勤務。2020年から2023年7月までニューヨークの国連日本政府代表部、2023年9月からは再び国連職員としてアフガニスタンで勤務
◎第1回「『国連の存在意義って!?』そう思っている日本人に知ってほしい国連の役割」
◎第2回「安保理改革の実現は困難も、常任理事国の拒否権行使に制限をかけることは可能」
◎第3回「ジェンダーギャップ指数で低迷する日本が世界で貢献できる女性支援の取り組み」
日本人のグローバル志向は落ちている?
羽生田慶介氏(以下、羽生田):今回は国連の話から少し離れて、水田さんのキャリア観や日本人の海外志向についてお聞きできればと思います。
水田愼一氏(以下、水田):はい。
羽生田:かつての日本人には、国際人としてグローバルなフィールドで働くことに対する、一種の憧れがあったように思います。それに対して、今は国際的なキャリアに対する志向が弱くなっているように感じます。その点について、水田さんはどのように感じていますか。
水田:政府が出している統計によると、コロナ前までは、単位を伴う長期留学で海外の高等教育機関に行く日本人の数は減少していましたが、一方で海外で勉強する若者は増えていたそうです。
これが何を意味しているのかというと、短期で留学する人は増えていたけれど、しっかりと腰を据えて勉強する人、もっと言うと、外国の大学院に行って修士号・博士号を取るなど海外で学歴を積み、その水準で国際的な競争に参加しようとする日本人が圧倒的に減っていたということです。
国内の研究環境は明らかに悪化しています。それでいて、海外で博士号を取る人も減っている。これは、技術力の低下という側面だけでなく、国際水準で学んだ物事を日本に持ち込める人が減っていくということです。そこに危機感を感じています。
羽生田:80年代などは、企業留学も多い時代でしたよね。けれど、教育を受けさせた人たちが退社してみんな外資系企業に行ってしまうから、今は企業留学自体も少なくなっています。
水田:理系の研究者の場合、海外に留学し、ポスドク(任期付きの研究職ポジション)に就くと、なかなか日本に帰ってくることはないと思います。日本は給料が安いうえに研究環境も悪く、海外と同水準の研究ができませんから。
そうなると、「日本に帰ってこない人にカネをかけて留学させるのか」という議論になるので、海外で学んだ人が日本に帰ってきたいと思えるように日本でも海外と同水準の研究ができるような環境を整えるべきなのですが、そのためのお金が国にない。
今年の春、理化学研究所で10年を超える有期雇用を認めない「10年ルール」のために、雇い止めにあう研究者が続出したという話がありましたよね。あのようなことをやっていると、日本の研究水準が奈落の底に落ちていくのではないでしょうか。
こうした負の連鎖はさまざまな面で起きています。国際的に活躍する人材が減少しているという課題については、しっかりと向き合っていく必要があると感じています。
羽生田:国連ではどうでしょうか。日本人の職員は減少傾向にありますか?