アフガニスタンにおけるタリバン政権の復権やニジェールの軍事クーデター、そして泥沼化するロシアによるウクライナ侵攻。日々様相を変える国際社会は、常に課題を抱える火薬庫のようなものだ。
その中で、混沌とした国際社会の調整を図るべく、今日も様々な議論が交わされている場がある。国際連合、すなわち国連である。
国連とはどのような組織で、どのような形で世界に影響を与えているのか。戦争を止めることのできない国連に存在意義はあるのか。日本は国連にどのように関わるべきなのか──。
知っているようであまり知らない、外からは見えにくい国連という組織について、外務省やシンクタンク、国連職員など様々な立場から国連に関わってきた水田愼一氏と、官民のルール形成や人権・サステナビリティの分野で独自のポジションを築いているオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介CEOが語り合う対談の第2回。
※肩書は本対談を実施した2023年8月時点。水田氏は外務省、シンクタンクに勤務した後、2011年から2020年まで国連職員としてアフガニスタン、ソマリア、リベリアに勤務。2020年から2023年7月までニューヨークの国連日本政府代表部勤務。2023年9月から再び国連職員としてアフガニスタンで勤務
※第1回「『国連の存在意義って!?』そう思っている日本人に知ってほしい国連の役割」から読む
羽生田:前回の記事で国際公共財について言及されていました。自国の公共投資などでも経済合理性が問われる時代ですが、国連のプロジェクトに経済合理性を問うべきなのでしょうか。
水田:どの視点で経済合理性を考えるかによって回答は変わりますが、世界の経済活動の主体である資本主義を突き詰めた結果、大きな格差ができてしまったわけですよね。富める者ばかりが富み、他はみんな貧しいまま。そのような世界が、果たして合理的なのか。
拡大する貧富の差や環境問題など山積する目の前の課題を考えることも重要ですが、根本的な話として、どうすれば人類が地球と共存できるのかがわからない中で私たちはもがいているわけですよね。その中で、新しいビジョンをつくり、推し進めていかなければならない。
こういう取り組みは、短期的に見れば経済合理性がないのかもしれませんが、長期で見れば、人類にとって大きなメリットがある。これをどう考えるか。
また、これまでは資本主義の中、民間がドライバーとなって経済成長を果たしてきました。でも、現在私たちが抱える格差の問題などをみると、民間だけで合理的な仕組みを提供できているのかといえば、決してそうではありません。
もう一方の官だけでもうまくいかないということを考えれば、官と民を分けることなく、新しいビジョンを打ちだしていく必要がある。その時に、主導的な役割を果たす機関はやっぱり国連だろう、と。
羽生田:ご指摘の通り、1年間という期間の中で経済合理性を問う場合もありますし、「米百俵の精神」のように、20年、30年のスパンで考えて合理的という場合もある。国連はそのような長期のスパンで解決しなければならないこと、官でも民でも解決できないようなことに取り組むというところに存在意義がある、と。
水田:そうです。日本は国連の分担金で3番目なので、新しいビジョンを考えるうえで主導的な役割を果たさなければならないと思うのですが、日本政府はこういうことは苦手ですよね。日本人が苦手だとは思わないけれど、少なくとも日本政府は苦手だと感じます。