いじめ防止対策推進法のきっかけとなった2011年の大津市のいじめ自殺事件。2012年8月、第三者委員会の初会合を終え、報道陣の質問に答える尾木直樹氏(写真:共同)

 いじめを「対象生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義し、学校に早期発見を義務付けた「いじめ防止対策推進法」(以下、いじめ防止法)の施行から10年が過ぎた。

 だが、いじめは少しも減っていない。文科省によると2022年度の小中高学校における認知件数は68万1948件、そのうち心身に深刻な被害が生じる「重大事態」も923件で、いずれも過去最多。いじめで自殺した児童生徒は5人という。

 いじめ防止法制定のきっかけになったのは、2011年に中学2年生の男子生徒が自殺した滋賀県大津市の事件。外部調査委員会の委員を務めた教育評論家の尾木直樹氏に、いじめの実態について話を聞いた。

湯浅大輝(フリージャーナリスト)

後編:尾木ママに聞くいじめ問題「解決を遅らせる学校・教育委員会の閉鎖的構造」

いじめ原因で自殺=5人は本当なのか?

──2022年度はいじめの認知・重大事態件数ともに過去最多を記録しました。この数字をどのように評価していますか。

尾木直樹氏(以下、敬称略):いじめ問題に関わり始めて35年以上が経ちます。いじめの認知件数が増加傾向にあること自体は良い悪いで判断するのが難しい。というのも、かつては「発生主義」、つまり、学校側がいじめを事実として確認したものを報告するとらえ方だったのですが、2006年にいじめの定義が、被害者が「苦痛を感じ」たらいじめとするように変更され、現在は「認知主義」のとらえ方に変わっています。要するに、これまで隠れていたいじめが大量に浮かび上がってきている、と捉えることも可能なのです。

  一方、現在は小中学生の間でもスマホ・SNSの使用率が高まっているなど、子どもを取り巻く環境が大きく変化し、いじめの把握がさらに難しくなっています。重大事態の件数が過去最多を記録したことから分かるように、いじめ防止法は形骸化してきています。また、この10年で学校や教育委員会が設置した調査組織の調査後、再調査に至ったケースは106件もあります。さらに、「重大事態」と認定された事案のうち、事前にいじめと認知されていなかったケースは何と44%にも達しており、法の目指す「早期発見、早期対応」には程遠い現状です。

──尾木さんは日本全国でいじめが「重大事態」に至った事件において、調査委員を務められています。凄惨ないじめ事件が後を絶たない中、学校や家庭はどのようなことに留意すべきだとお考えですか。

尾木:日本の教育現場におけるいじめ事件で最も不十分なのは加害者への指導です。私のところにはこれまで数え切れないほど多くの被害者から相談がありましたが、それと比べて加害者側の親からの連絡はたったの2件だけです。つまり、加害者は被害者ほど、いじめ問題を深刻には受け止めていないようです。

 特に地方に行けば行くほどこの状況は顕著です。全国的に報道されたいじめ事件では、ご遺族を含む被害者側が、加害者を含む周囲の人たちから白い目で見られ、その地域に住み続けられなくなるようなケースさえ出ています。

出所:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(文科省のホームページより拡大画像表示

 文部科学省の調査*1では、「いじめの問題」を原因に自殺した小中高生は合わせて5人(2022年度、学校が認知した小中学生の自殺者は計411人)でしたが、これは明らかに過小です。地方に行けば行くほど隠蔽体質はひどくなり、いじめと自殺の因果関係を認めず「突然死」「転校」などと報告をご遺族に改ざんすることを勧めるケースさえあります。いじめ防止法では、学校に対して、いじめがあったかどうか詳細に調べることと、いじめに由来する児童の自殺や不登校が発覚した時点で外部の調査委員会の設置と首長への報告を求めています。

*1令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(文部科学省)