東京・汐留にある共同通信社本社(写真:西村尚己/アフロ)

 今年7月24日、共同通信社に所属していたある記者が、同社に対して「記者の言論の自由を侵害した」として損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起した。

 共同通信社は、原告が2022年11月に出版した書籍が不適切だとして重版を禁じる通知を出し、さらに記者職から解任した。この本には、長崎県長崎市にある学校で起きたいじめによる自殺と、遺族、学校、県、メディアの動向や対立について書かれている。

 何が不適切だとみなされたのか。訴訟の当事者であり、『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』(文藝春秋)を上梓したジャーナリストの石川陽一氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では、長崎市にある中高一貫の私立海星学園で2017年4月20日に起きた高校2年生の自殺と、遺族と学校の対立、メディアの報じ方などについて書かれています。福浦勇斗さんがどのようにして亡くなったのか、教えてください。

石川陽一氏(以下、石川):勇斗さんは中学から海星学園に入り、内部進学で、難関大学を目指す特別進学コースに入りました。いじめが始まったのは中学3年の頃からでした。

 きっかけは、授業中にお腹の音が鳴ってしまったということです。次第に同級生からからかわれるようになり、こういったからかいがずっと続き、第三者委員会の調査結果によれば、やがていじめに発展して、これが主たる要因で勇斗さんは自殺に至りました。

 遺書や手記が発見されており、いじめられていたという認識や加害者の名前などが書かれていました。

──事件から2年後の2019年2月、勇斗さんのご両親が長崎県庁の県政記者クラブで会見を開きます。なぜ会見を開いたのでしょうか?

石川:ご遺族が何を求めていたのかというと、勇斗さんのいたクラスで命の大切さについて話し合ってほしい、全校の保護者にあったことを共有して同じことが起きないように注意し合ってほしい、加害者を糾弾する必要はないけれど反省はしてほしい、だから学校に加害者に指導してほしい。そういったことを望んでいました。

 でも、学校側は遺族の要望に応えようとはせず、やがて勇斗さんの同級生の卒業の時期が近づいてきたため、メディアに出て窮状を訴えたのです。当初、ご遺族はメディアに出ることを望んでいませんでした。苦渋の決断だったと思います。

──勇斗さんのご両親は、学校に対して、なぜいじめがあった事実を認め、公表しないのかと問うています。