大津いじめ自殺から12年 、男子生徒の通っていた中学校で開かれた「命を思う集い」で黙とうする生徒=10月11日午前、大津市(代表撮影)(写真:共同通信社)

 いじめを「対象生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義し、学校に早期発見を義務付けた「いじめ防止対策推進法」(以下、いじめ防止法)の施行から10年が過ぎた。

 だが、いじめは少しも減っていない。文科省によると2022年度の小中高学校における認知件数は68万1948件、そのうち心身に深刻な被害が生じる「重大事態」も923件で、いずれも過去最多。いじめで自殺した児童生徒は5人という。

 教育評論家の尾木直樹氏へのインタビュー前編では、いじめの問題を克服するには何が必要かを聞いた。後編では、いじめ防止法改正の論点について尾木氏に聞く。

湯浅大輝(フリージャーナリスト)

前編:尾木ママに聞くいじめ問題「認知件数は氷山の一角、見落とされる重大事態」

教員への罰則規定を導入すべき理由

──尾木さんは前回の記事で、いじめ防止法はすでに実効性に乏しく、早急に改正が必要だと指摘しました。具体的に、いじめ防止法のどの部分を改正するべきだとお考えですか。

尾木直樹氏(以下、敬称略):いじめ防止法は議員立法で、政治的思惑が入り込んだ妥協の産物ともいえる法律です。改正すべきポイントはいくつもあります。

 まず第4条。「児童等は、いじめを行ってはならない」とあります。ここは変えなければなりません。いじめは「してはいけない」のは当然のことですが、いじめはどうしても「発生する」ものです。いじめが発生する前にどのようにケアをしていくかを考えなければなりません。

 いじめ防止法のあるべき姿は、いじめの早期発見とその解決につながるような法律です。「人権を尊重できるような児童になろう」という風に、ポジティブな表現に直すべきです。

尾木直樹(おぎ・なおき) 1947年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校教師として、22年間子どもを主役とした創造的な教育を展開。その後大学教員に転身して22年、教壇に立つ。2004年に法政大学キャリアデザイン学部教授に就任。2012年4月法政大学教職課程センター長・教授。定年退官後、現在は法政大学名誉教授。主宰する臨床教育研究所「虹」では、現場に密着した調査・研究に取り組んでいる。2023年4月都立図書館名誉館長に就任。

 そして、担任の先生が予見可能だった、あるいは生徒と一緒にいじめをしていたという事案が起きた場合、「教員に対する罰則規定」を明確にするべきでしょう。私が教師をしていた頃は「先生が一緒になっていじめをしていた」という例を聞くと信じられない気持ちがしました。しかし、現在は多くのいじめ事件を見聞きしていると、そういった事例が多発していると実感しています。

 軽いもので言えば、クラス全員の前で遅刻や嘘をついたことを叱責するケースがあります。先生が全員の前で叱ると「この子はいじめても良いんだ」と子どもたちにお墨付きを与えかねないのです。もちろん、指導をしないという意味ではありません。あくまで個別に注意するとか、注意対象の子どもがいじめられないように留意するとか、そういった工夫を促すような体制づくりが必要でしょう。

 そうした罰則規定を設けることで、いじめ問題に対して先生たちがより注意してクラス運営に臨めるようになります。担任の先生だけでなく、教務主任や生活指導の教師、もちろん管理職、あるいは他クラス・他学年の先生がいじめを早期発見できるチャンスが増えていくのです。