国内で高い支持率を得ているウクライナのゼレンスキー大統領(写真:Sean Kilpatrick/Canadian Press via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
  • 戦争の長期化が避けられそうにないウクライナだが、開戦当初の予想に反し財政は安定感を増している。
  • インフレの抑制に成功し、支援金で外貨準備も潤沢だ。一部の国債の価格は6月以降に5割ほど上昇した。
  • だが2024年、仮に大統領選挙が実施され国内の団結にヒビが入るような事態になれば、戦況も財政への信任も大きく揺らぎかねない。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 3カ月前に反転攻勢を開始したウクライナ軍はこのところ、クリミア半島の奪還に向けて攻勢を強めている。クリミア半島は2014年にロシアに併合され、ゼレンスキー大統領が「必ず奪還する」と強調している地域だ。

 ゼレンスキー氏は「クリミア半島を含むロシア軍に奪われた全領土の奪還」を停戦の条件に掲げているが、反転攻勢全般の戦況はかんばしくない。戦争の長期化は避けられない情勢となっている。

 長引く戦況を耐え抜くためには健全な経済が必須だ。しかし、連日のようにロシアからの攻撃にさらされるウクライナ経済は深刻なダメージを被っているのは言うまでもない。

 2022年の実質国内総生産(GDP)は前年比29%減の1兆8000億フリブナ(約7兆円)となった。2022年の消費者物価指数(CPI)も急上昇した(前年比26.6%増)。

 継戦能力の維持のためには安定した財政運営も不可欠だが、急増する戦費を歳入が賄えなくなったウクライナ政府は国立銀行(中央銀行)による国債引き受けに踏み切らざるを得なくなった。今年度のウクライナの財政赤字は侵攻前に比べ約9倍に膨らむ見込みで、西側諸国からの支援金に依存する状態が続いている。

 市場関係者は開戦当初「ウクライナ財政が破綻するのは時間の問題だ」と危惧していた。だが予想に反し、ウクライナ財政はこのところ安定感を増しているようだ。

 2023年8月のCPIは8.6%と1ケタになるなどインフレ抑制に成功したことが大きかった。日本をはじめ先進国ですら高いインフレ率に苦しんでいるのに、領土が戦場となっている国が物価を制御できているのはたいしたものだ。

 支援金のおかげでウクライナの8月末の外貨準備高が404億ドルと過去最高となっていることも好材料となっている。