ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏が搭乗し墜落した小型ジェット機には、ほかにも「総司令官」と呼ばれたドミトリー・ウトキン氏らが同乗していた。ワグネルのトップ3人を同時に暗殺し組織を一気に解体することが狙いだったとみられる。
『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)でワグネルとプーチン大統領の蜜月の関係を詳報した慶應義塾大学の廣瀬陽子教授に話を聞いた。廣瀬氏は「今回の“見せしめ的”暗殺劇は、間違いなくワグネルの解体を狙ったもの」と分析する。ワグネルはプーチン大統領の「汚れ役」として、アフリカ諸国など「グローバルサウス」と呼ばれる発展途上国で非合法に暗躍し、ロシアの影響力を拡大する役目を担ってきた。ワグネルを解体したプーチン大統領は今後、どうなるのか。(JBpress)
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──プリゴジン氏を乗せた飛行機が墜落しました。暗殺との見方が有力ですが、首謀者は誰でしょうか。
廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授(以下、敬称略):99%、プーチン大統領が命令したと考えていいでしょう。プリゴジン氏は「プーチンの料理人」と呼ばれたほどプーチン大統領と親密でした。プーチン大統領と数々の秘密ディールを交わしてきた人物を、プーチン大統領以外の誰かが殺せるとは思えません。
──プリゴジンの乱から約2カ月。なぜこのタイミングだったのでしょうか。
廣瀬:大きく分けて2つ理由が考えられます。1つは「見せしめ」です。プリゴジンの乱により、プーチン大統領は非常に疑心暗鬼になっていた節があります。「第2、第3のプリゴジンの出現は許さない」という意志を明らかにしたかったのでしょう。実際、内部に反逆者がいるのではという疑いから、軍内部の粛清も一部始めていると言われています。
2つ目は、ワグネルはもはや用済みになった、ということです。プリゴジンの乱から2カ月間で、ワグネルがアフリカ諸国で果たしていた役割をロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)、つまり正規軍が引き継ぐ準備が整った、ということなのでしょう。
あまり日本では報道されていませんが、墜落した機内にはワグネルのナンバー2で軍の統括者であるドミトリー・ウトキン氏と、武器の調達を担っていたナンバー3のヴァレリー・チェカロフ氏も搭乗していました。
殺された3人は一心同体のような存在です。常に一緒に移動していたとも言われています。ウトキン氏とチェカロフ氏は、アフリカ諸国で暗躍するワグネルを軍事面で支える重要人物です。プリゴジン氏が経営者として資金調達を担当する一方、ウトキン氏は現場を指揮、チェカロフ氏は武器調達と作戦の執行に欠かせない役割を担っていました。
ワグネルのトップ3人を一度に殺害することで、用済みになったワグネルを一気に解体することを狙ったと考えられます。プリゴジン氏だけを暗殺しても、2人が残っていればワグネルは存続してしまう可能性がありました。