ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏の武装蜂起は、同氏の撤退により未遂に終わった。だが、先行きは予断を許さない。『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』 (講談社現代新書)でワグネルやプリゴジン氏の実態を詳報した慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子氏に話を聞いた。廣瀬氏は断定的なことは言えないとしつつ、プリゴジン氏の暗殺やワグネルの解体は起きないのではないかと分析する。その理由は?(JBpress)
「プーチンの料理人」がなぜ軍事会社を創設?
──プリゴジン氏が武装蜂起してから3日が過ぎました。26日(日本時間)、同氏はSNSで「政権転覆の意図はなかった」と発信し、プーチン大統領も同日「(ワグネルの)戦闘員は国防省などと契約し、ロシアの兵役を続ける機会がある」と述べています。27日夜にはベラルーシのルカシェンコ大統領が、プリゴジン氏が同国に到着したと声明を出しました。一見すると事態は収束しつつあるようにも見えますが、廣瀬先生はどのように分析していますか。
廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授(以下、敬称略):情報が錯綜していて、はっきりと事態をつかめていないというのが正直なところです。事態は刻一刻と変化しています。状況を注視したいと考えています。
──そもそも、プリゴジン氏とは何者なのでしょうか?
廣瀬:1961年生まれのプリゴジンは、ソ連時代には強盗や詐欺、売春の罪で9年間収監されていました。釈放後、ホットドッグの屋台業で成功し、レストラン業に進出します。運営していたレストランが大統領就任前のプーチン氏に気に入られ、それ以来、密接な関係を築いていきます。「プーチンの料理人」とも呼ばれる背景には、こうした2人の関係があります。
(廣瀬教授への関連インタビュー:ワグネルが暗躍するハイブリッド戦、ウクライナだけではなく日本も「戦時中」)
2012年、プリゴジン氏はビジネスを広げ、軍のフードコート運営という業務を受注していました。そして2014年のクリミア併合の際に、プーチン氏は「民間の軍事会社をつくってほしい」と依頼します。