ロシア・ウクライナ戦争ではサイバー攻撃などを使った『ハイブリッド戦』が繰り広げられている(写真:ロイター/アフロ)

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏がプーチン政権に対して起こした武装反乱で、ロシア・ウクライナ戦争は重大な局面を迎えている。ワグネルはプーチン政権の下で「ハイブリッド戦争」も担い、2014年以降のウクライナ危機などで暗躍してきた。ハイブリッド戦争とは、従来型の戦闘だけではなくサイバー攻撃やプロパガンダなども含む複合型の戦争のことだ。

ロシア・ウクライナ戦争では当初から、双方ともハイブリッド戦争を仕掛け合ってきた。国際政治が専門で、慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子氏は、ウクライナが善戦している背景にも同国がハイブリッド戦争への耐性を養ってきた事実があると分析する。

廣瀬氏はまた、「境界線がない戦争」を意味するハイブリッド戦争がChatGPTなどの生成AIツールの普及で助長され、日本も「対岸の火事」と油断はできない、と指摘する。(JBpress)

──ロシア・ウクライナ戦争は、当初から「ハイブリッド戦争」であることが注目されていました。そもそも、ハイブリッド戦争とはどのような戦争でしょうか。
 
慶應義塾大学総合政策学部の廣瀬陽子教授(以下、敬称略):ハイブリッド戦争とは、従来型の戦闘、つまり正規戦だけではなく、サイバー攻撃やメディア・SNSを使った情報戦など、ありとあらゆる手段を用いた非正規戦も大きな役割を果たすような複合型の戦争のことを指します。その意味で、どこからハイブリッド戦争が始まっているのか、ということすらあいまいで、常にハイブリッド戦争が仕掛けられている、と考えることもできます。

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)氏 慶應義塾大学総合政策学部教授 慶應義塾大学総合政策学部卒、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学。学位は博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。2016年より現職。専門は国際政治、旧ソ連地域研究。国家安全保障局顧問など政府の役職も多数。主な著書に、『コーカサス 国際関係の十字路』集英社新書【第 21 回「アジア・太平洋賞」特別賞受賞】、『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』講談社現代新書など多数。

 もっとも、その定義は研究者の間でも定まっていません。手段や戦闘員が多様化を続けている中では定義ができないというのが正直なところかもしれません。昔から正規戦に伴って、プロパガンダなどの情報戦も繰り広げられていたことを踏まえれば、ハイブリッド戦争という概念自体は目新しいものではないとも言えます。

(廣瀬教授への関連インタビュー:プーチンはプリゴジンを暗殺できない?「汚れ仕事」を任せた都合のいい存在

 ただ、特にハイブリッド戦争が注目されるようになった2014年のロシアによるクリミア併合以後に顕著なのは、戦争がインターネットを含む「サイバー空間」に広がっていることです。実際、ロシア、ウクライナ共に様々なサイバー攻撃や情報戦を仕掛け合っています。
 
 こうしたバイブリッド戦争は、ロシアとウクライナだけの問題ではありません。世界中に脅威が広がっています。実際、日本に対してもサイバー攻撃は常に仕掛けられています。その意味では、日本も既に、ハイブリッド戦争の「戦時下」にあります。