感情的なコミュニケーションは代替されない

——となると、コールセンター業務でAIに代替されない領域は?

:やはり、人間にしかできない(クレーム対応など)感情的なコミュニケーションではないでしょうか。話を聞いて欲しいとか、会話の中で感情的な問題の解決をしていく業務については、これからも人間が行う必要があるでしょう。形式的な対応はAIに任せて、これまでは人的リソースが足りず長い通話時間を取れなかったお客様への対応を重点的に人間が行うようになる可能性は高いと思います。

 例えば、BtoC(消費者向け)企業では、昨今はネット販売の売り上げが伸びるに従って、これまでのコールセンターの役割を大きく転換させています。従来は「コールセンターはお客様サービスの向上のため」という位置付けだったのが、現在では「新たな売り上げをつくるための受注センター」となっているのです。

 実店舗への来客が減る中、コールセンターへの電話を通して新たな商品を買うようなケースが出てきているということです。例えば、家具量販店のネット販売で机を購入しようとしているお客様からの問い合わせに対して、お客様のイメージに合う机や卓上ライトなどを提案することも増えています。新たなカスタマージャーニーをコールセンターがつくっているのです。

 こうした丁寧な電話でのやりとりを通じた「かゆい所に手が届く会話」はテキストでは難しく、今後かなり重要な仕事になっていくと考えています。

音声通話での感情的なコミュニケーションは生成AIに代替されない?(写真:アフロ)

——従来のお客の質問に的確に答えるだけの業務ではなく、営業活動の一環という仕事が増えていくイメージでしょうか。

:もちろん、従来のコールセンター業務も引き続き重要なことは間違いありませんが、より売り上げに直結する業務が求められていくと考えています。

 また、今後はコールセンター業界ならではの「音声データ」を活用した取り組みも注目されていくでしょう。私たちは毎日、電話を通してお客様の声を聞いています。そこで、毎日の通話を録音し、文字に起こして、データ分析などに活用するのです。蓄積した膨大な数のテキストデータから、お客様のニーズや潜在的な需要などを分析できます。

 今後は、コールセンター業界も、「コールセンター」と名乗るのではなく、「コンタクトセンター」を標榜しても良いかもしれません。「コール」、つまり通話だけでなく、重要な顧客接点として独自の価値を提供できる業界に生まれ変わっていく必要があると考えています。