◉名古屋城の木造天守再建問題を考える(前編)
◉名古屋城の木造天守再建問題を考える(後編)
◉名古屋城の木造天守再建問題で本当に心配なこと(前編)
木造復元案の本当の問題点
高度経済成長期に建てられたコンクリート製天守の老朽化問題を、どうするか?
前回挙げた4案のうち、もっとも期待がふくらみそうな木造復元案には、長期的にコストがかさむという問題点があることを指摘した。ただ、木造復元案の問題は、それにとどまらない。
ほとんどの天守には、名古屋城のような詳細な調査資料がないのだ。いや、名古屋城が例外といった方がよい。写真等から外観が判明する天守は少なくないが、内部の構成(間取り)や木組みはわからない。他の城の例から類推するしかないのだ。これではたして、「考証的に正しい復元」といえるか、どうか。
市長が、「専門家の先生にお願いして綿密な考証を重ねてもらいました」といえば、もっともらしく聞こえるかもしれない。しかし、論理的に考えるなら本当は、特定の研究者の説に基づいた推定でしかない。
筆者が心配するのは、ここだ。
天守を木造で復元するには、さまざまな考証や建築上のノウハウが必要となる。しかし、そのようなノウハウを持つ研究者や建設業者は、極めて限られる(というか、ほとんどいない)。そんな状況で、名古屋城天守のような人目をひく大型プロジェクトを手がければ、強力な実績になる。
プロジェクトを成功させた建設業者と研究者は、大いに実績をアピールして営業に精を出すだろう。何せ、天守の木造復元を独占事業として全国展開できるのだ。
当然、復元構想のある自治体は飛びつく。「名古屋城を手がけられた専門家の先生と、実績のある業者にお願いして…」と、議会や市民に説明できるからだ。皆さんご存じの通り自治体の首長というのは「何々の建設に何億円かけました」と自慢したがる人種である。
その場合、名古屋城天守がバリアフリー非対応で復元されれば、それが「実績」となる。つまり、身障者が入城できない木造天守が、観光施設として全国各地に次々と建ってゆくのだ。