名古屋城 撮影/西股 総生(以下同)

◉名古屋城の木造天守再建問題を考える(前編)

「観光の目玉」とするならば

 どんな仕事をしていようが、どんな研究に携わってこようが、人は人である。そこで、まず「日本社会に生きる一市民」という立場から、名古屋城天守の木造復元問題について一言述べておきたい。

 どのような事情があれ、市の事業として、税金なり公的資金を用いて観光施設を建設する以上、すべての人が平等に利用できるようにすべき、という意見が出てくるのは当然のことだと思う。

空襲で焼失した福山城天守も戦後に鉄筋コンクリートで再建されたものの、細部には違いも目立った

 もしこれが、純然たる学術研究目的の復元で、建物内に立入りできるのは、普段は学術研究関係者のみ、ということであれば、可能な限りオリジナルと同じにするべきだろう。この場合、エレベーターは当然不要だ。

 しかし、公共事業で観光施設を建てるとなれば、話は全く別だ。いくら学術的な考証に基づくといっても、観光施設として入場料を取って一般公開するのなら、バリアフリーに配慮するのは当然ではないか。        

 河村市長は過去に「観光の目玉」として復元する、と明言している。だとすれば、身障者であれ何であれ、特定の属性を持った人たちを排除するのは、行政のあり方として間違っている。もし筆者が名古屋市民だったら、納税者としてまったく納得ができない。

 しかし、公的資金を用いて、史跡の場で行う公共事業なのである。エレベーター反対派の人たちは、エレベーター設置を求めるのは身障者の「わがまま」だ、と主張しているそうだ。

 しかし、そのロジックがまかり通るのなら、自分が見たいから公共事業で本物そっくりに建ててくれ、というのだって同じように「わがまま」ではないか。どうしても本物そっくりがいいというのなら、有志が集まって私財を投じて名古屋市内に土地を買い、天守を再建すればよいではないか。それなら、存分にやっていただいて結構。

耐震補強に伴ってリニューアルされた福山城天守。外観はかなり本物に近づいた一方で、エレベーターやスロープが設置されバリアフリー化されている