ウクライナ戦争が日本の防衛に突きつけた課題は非常に多い(写真は陸上自衛隊の令和5年富士総合火力演習、陸自のサイトより)

「与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム」(座長・小野寺五典衆院議員)は「防衛装備移転に係る論点整理」を取りまとめ、7月5日、萩生田光一自民党政務調査会長および高木陽介公明党政調会長に報告した。

 政府は2022年末に策定した「国家防衛戦略」で、防衛装備品の海外移転について「わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使または武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策手段」と位置付けた。

 その上で、「防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討する」との方針を示した。

 これを受け、同ワーキングチームは、2023年4月から12回にわたって防衛装備移転三原則の運用指針等について議論し、論点を整理した。

 今後、同ワーキングチームが取りまとめた論点について検討していくことを政府に求めている。

 ところで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった2022年2月末、岸信雄防衛大臣宛にウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相から「防御用の兵器、兵站、通信、個人防護品」などの支援要請が届いた。

 そして、日本がウクライナに送ったのが、防弾チョッキとヘルメットである。

「ウクライナはこんなひどい目に遭っているのに、なぜ日本は武器を支援しないんだ。普通の国とはいえない。価値の判断もできない国なのか」

 欧州のある国の外交官は2022年春、日本の外務省幹部をこう非難した。

 外務省幹部は「価値判断という表現は『善悪すら分からない国』という意味に感じた」と振り返る。

(出典:日本経済新聞「『普通の国』と戦後民主主義」2022年10月22日)。

 今、湾岸戦争時の教訓を想起すべきである。

 1990年8月2日、イラクによるクウェートへの軍事侵攻で始まった湾岸戦争は、冷戦後の世界が経験した最初の国際危機であった。

 この危機に際し、日本の貢献は130億ドルの資金的貢献であった。

 日本が莫大な資金的貢献をしたにもかかわらず、クウェート政府が米国の主要英字紙に掲載した感謝国30カ国には日本の国名がなかったことは日本人に大きなショックを与えた。

湾岸戦争で、当時の米国のジョージ・ブッシュ(父)大統領は、自衛隊派遣を事実上要求していた(写真:AP/アフロ)

 ウクライナ戦争におけるウクライナの勝利は、欧米諸国からの兵器の供与にかかっている。

 戦後、ウクライナが軍事支援しなかった日本を感謝国に加えるとは思えない。

 事実、ウクライナ外務省は2022年4月25日のツイッターで、「困難な時に揺るぎない支援に感謝する」などとして、米国やドイツなど約30か国の国名を挙げた動画を公開したが、日本は含まれなかった。

 外務省によると、ウクライナ政府からは「武器支援を行った国への謝意が示された」との説明があったという。

(出典:読売新聞オンライン2022/04/27)

 相手国が真に必要とする支援をしなければ感謝されないことが浮き彫りとなった。

 筆者は、日本が一刻も早く「一国平和主義」に決別し、ウクライナに兵器を供与することを願っている。

 日本がウクライナを支援する理由の一つは、今回のロシアの力による一方的な現状変更の試みを国際社会が許してしまえば、アジアでも同じような事態が起こりかねないということである。

 筆者は、防衛装備移転三原則を撤廃すべきであると考えている。

 その理由の一つは一国平和主義との決別であり、もう一つは防衛産業の育成である。

 本稿では、防衛装備移転に係る論点整理の背景にある一国平和主義との決別と防衛産業の育成について筆者の個人的意見を述べてみたい。

 初めに、防衛装備移転三原則の見直しの経緯について述べ、次に、防衛装備移転に係る論点整理の内容について述べ、次に一国平和主義との決別について述べ、次に防衛産業の育成について述べ、最後に提言を述べる。