令和5年富士総合火力演習(陸上自衛隊のサイトより)

わが国の防衛産業の課題とその対策

「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」(以下、「防衛生産基盤強化法」という)が、6月7日の参院本会議で、与党と立憲民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。

 この法律の制定の背景には、ロシアのウクライナ侵攻を受けて注目されたわが国の継戦能力の問題と、その継戦能力を支える防衛企業が相次いで防衛事業から撤退するなど防衛産業能力の維持の問題が、緊急の課題として浮上したことがある。

 同法では、国の財政支援を通じて、防衛装備品の海外輸出などを促進するとともに、事業継続が困難となった際に製造ラインの国有化を可能にすることなどが柱である。

 同法のポイントの詳細は後述する。

 また、6月18日付け読売新聞は、同法第3条に基づき防衛大臣が策定する基本方針の原案について報道した。

 新たな方針は、2014年に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」に代わるものであり、基盤強化の方向性が具体的に明示されている。10月の法施行に向け、近く公表する予定と見られている。

 同原案のポイントの詳細は後述する。

 さて、防衛分野の事業から撤退した企業は直近20年で100社超に上る。

 これに対して政府は防衛費の増額や企業への財政支援によって、撤退しようとする企業の引き止めを図ろうとしている。

 軍事ジャーナリストの清谷信一氏は、次のように述べている。

「防衛費が増えれば問題が自然に解決するわけではない。問題は近視眼的な売り上げや利益率の多寡ではない」

「仮に何割か防衛費を増やしても根源的な問題を解決しない限り、防衛産業から離脱する企業は増えていくだろう」

「なぜなら政府、防衛省・自衛隊、経済産業省、そして当の防衛産業の企業に防衛産業が『産業である』という認識、そして当事者意識および能力が欠落しているからだ」

「このため防衛産業には産業としての将来が見込みにくい。政府、防衛省にはまともな防衛産業の振興策はないと言わざるを得ない」

「ここ20年ほど、防衛産業の振興や抜本的な構造改革が行われてきたが、その実、何も変わっていない」

(出典:東洋経済オンライン2022/06/18)

 筆者も清谷氏の意見に同感である。

 本稿では、撤退しようとする企業を引き止めるために財政的支援をするというその場しのぎの対策でなく、各企業の一部門である防衛事業を再編・統合し、同時に現行の防衛装備移転三原則を撤廃して、防衛産業を稼げる一つの産業として育成するという抜本的対策を提言したい。

 以下、初めに同法のポイントについて述べ、次に報道ベースであるが防衛大臣が策定する基本方針原案のポイントについて述べ、次に、防衛産業を取り巻く課題について述べ、最後に、提言(防衛産業の育成)について述べる。