ロシア南部の都市にあるFSB(国家連邦保安庁)のビルで発生した火災(3月16日、写真:ロイター/アフロ)

ウクライナによる後方攪乱工作という謀略

 ロシアのウクライナ侵攻から1年2か月以上が経過した。雪解け後のウクライナ軍の大規模な反転攻勢が予想されている。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月30日、国境警備隊の日に関連した式典での演説で、ロシアのウクライナ侵略について「この戦争での主要な戦闘が控えている」と述べた。

 ウクライナ軍が計画する大規模な反転攻勢の開始が近いことを示唆した。

 ところが、本当にウクライナ軍がすぐに反転攻勢に出るかは分からない。

「兵は詭道なり」という。「戦争とは騙し合いである」という意味である。

 すぐにでも攻撃するように見せかけて、ロシア軍を緊張・疲弊させようとしているだけかもしれない。

 しかし、現代においては偵察衛星や無人偵察機などで部隊の動きが常時監視されているので、騙すことは難しくなっている。

 さて、ウクライナ軍は謀略にも長けている。

 2022年9月6日に開始されたウクライナ軍の反転攻勢ではウクライナ軍は、5日間でハルキウ州のほぼすべてを奪還した。

 ロシア軍は戦車や装甲車、武器、弾薬を捨てて遁走した。この反転攻勢の成功は、陽動作戦によってもたらされたものである。

 ウクライナ軍は8月下旬、南部へルソンへの大規模反撃作戦があるように見せかけ、東部のロシア軍の南部への移動を誘い、手薄となった東部に奇襲をかけ、一気に東部を制圧したのである。

 ところで、話は変わるが、本年(2023)4月にウクライナの公開情報の調査・分析コミュニティの「モリファル」(Molfar)が興味深い調査報告書(更新版)を公表した。

 それによると、ロシアでの昨年通年の火災発生件数が414件だったのに対し、今年1~3月の3カ月間ですでに212件に増加しているという。

 かつ、いずれも数百万ドル(約数億円)規模の被害が出ており、経済がすでに低迷しているロシアにとっては大きな打撃となっているという。

 さらに、同報告書によれば、これらの火災はウクライナのスパイ活動とロシアのレジスタンス運動に起因するものだという。

 ウクライナのスパイ活動とは、具体的には後方攪乱工作という謀略によるものである。

「後方攪乱」は読んで字のごとく敵前線に対しての後方地域に工作を行い、混乱と動揺を惹き起こすことである。

 一般には、謀略とは目的を秘匿し極秘裏に行われるスパイ活動である。他方、後方地域を軍事力で攻撃することは策源地攻撃と呼ばれる。

 本稿では、ウクライナの後方攪乱工作という謀略とモリファルの調査報告書について述べてみたい。

 最初に、謀略、諜報、宣伝の3つの手段により実施される秘密戦の概念と世界的に有名な謀略の成功例である明石謀略について述べ、次にモリファルの調査報告書の内容について述べ、最後にブラックボックス・プロジェクトについて述べる。