日の丸半導体は本当に復活できるのか

「日の丸半導体」は復活できるか

 1980年代、日本の半導体産業が半導体の世界シェアの過半を占め、世界を席巻した。

 その当時、米国は30%台、アジア諸国はわずか数%に過ぎなかった。

 1980年代中頃にはDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)市場ランキングのトップ5を、日本電気(1位)、日立製作所(2位)、東芝(3位)、富士通(4位)、三菱電機(5位)の日本企業が独占した。

 多くの日本人は、彼らを「日の丸半導体」と呼び、強い日本経済の象徴として誇らしく感じていた。

 しかし、「日の丸半導体」のあまりの強さは、米国との貿易摩擦にまで発展し、日米半導体協定などをきっかけとして、成長にブレーキがかかる結果となり、結局のところ「日の丸半導体」は凋落した。

 日本が凋落した理由については、拙稿「半導体逼迫:TSMCはなぜ強いのか、日本が凋落した理由とは」(2022.6.29)で述べているので、本稿では割愛する。

 さて、2021年の半導体国別市場シェアでは、1位米国54%、2位韓国22%、3位台湾9%、4位は欧州と日本が6%、6位が中国の4%である(出典:米市場調査会社IC Insights)。

 このままいくと将来的に日本のシェアは0%近くになってしまうのではないかとも危惧される。

 翻って、半導体を巡る世界情勢を見ると、今、米中が国家の命運を懸けた半導体戦争の只中にある。

 米国は、7兆円の補助金で半導体工場の国内建設を後押しし、安全保障にも欠かせない先端半導体の技術で世界をリードしようとしている。

 対する中国は10兆円以上の基金で、半導体の技術開発を加速させている。

 米中の狭間で、「どうする日本」である。

 エルピーダの失敗もあり日本政府および企業は重い腰を上げようとしない。

 エルピーダは、1999年に韓国勢との安値競争に敗れたNECと日立製作所のDRAM事業を統合し、そして2003年に三菱電機のDRAM事業を統合し、「日の丸半導体」復活の担い手と期待された。

 しかし、2012年に経営破綻し、2013年に米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)に買収された。

 原因は資金不足などであったとされる。ちなみに、エルピーダはギリシャ語の“希望”を意味する。

 そのような中、2021年5月21日、自民党の半導体戦略推進議員連盟の初会合で甘利明会長は、会合冒頭、「日本にとって半導体戦略は今後の国家の命運を懸ける戦いになる」と発言した。

 その後、日本の半導体を巡る状況は大きく動いた。

 主要な事象は次のとおりである。時系列に沿って述べる。

 2021年10月15日、TSMC(台湾積体電路製造)が、日本国内で初めてとなる新工場を建設し、2024年の稼働開始を目指す方針を発表した。

 2021年11月15日、経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略検討会議」が「わが国半導体産業復活の基本戦略」を公表した。

 同戦略では、足下から2030年代までの支援策をIoT(モノのインターネット)用半導体生産基盤の緊急強化(Step:1)、日米連携による次世代半導体技術基盤(Step:2)、グローバル連携による将来技術基盤(Step:3)の3段階で進める政府の基本戦略が示されている。同戦略の詳細は後述する。

 2021年12月6日、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給および導入の促進に関する法律(以下、5G促進法という)および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法(以下、NEDO法という)の一部を改正した。

 高性能な半導体等の生産施設整備および生産に関する計画認定制度を創設した上で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に設置する基金から、計画実施に必要な資金の助成金の交付を行うという支援スキームが整備された。

 2022年8月10日、主要8社が出資し、2ナノメートル(ナノは10億分の1)(以下、nmという)以下の最先端ロジック半導体の開発・量産を行うことを目指し、ラピダスが設立された。ちなみに、ラピダスはラテン語の“速さ”を意味する。

 以上のように、一通り「日の丸半導体」復活の体制・態勢が整った。

 資金的支援についても、萩生田光一経済産業大臣は、2021年12月20日の参議院経済産業委員会で官民合わせて1兆4000億円を超える投資を行っていくとしている。

 ところが、米中と比べると、日本の支援額はあまりにも小さい。

 台湾の民間企業であるTSMCの年間設備投資額は、ここ数年で平均して300億~400億米ドル(1ドル=131円換算で3兆9300億~5兆2400億円)の投資をしている。

 今後、日本政府の資金的支援がどの程度増えるか、どの程度継続されるかが注視される。

 では、本当に「日の丸半導体」は復活できるのであろうか。

 台湾の著名なアナリスト集団は、「ラピダスは2nm半導体を量産できるか」という問いに対して、「技術的には可能だろう。ただし収益性のある量産の実現はまだ難しい」と答えている。回答内容の詳細は後述する。

 さて、本稿は「日の丸半導体」の復活はできるのかという観点で、関連する事柄について取り纏めたものである。

 初めに半導体産業支援のための法整備について述べ、次に半導体産業の「復活」に向けた政府の基本戦略とその現状について述べ、最後にラピダスに関する台湾アナリスト集団の分析について述べる。