中国に出張・旅行する際には言動によく注意しないと、スパイ罪で摘発される危険性がある

 中国で2014年に制定された「反スパイ法」(中国名:反間諜法)は、今年(2023)4月に法改正が行われ、7月1日施行された。

「反スパイ法」をめぐっては、スパイ行為の定義について曖昧だと指摘され、国際社会からは法律が恣意的に運用されるおそれがあると懸念が示されていた。

 今回、改正された法律ではスパイ行為の定義が拡大された。

 これまでの「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料や物品」、すなわち産業秘密(営業秘密)を盗み取ったり提供したりする行為およびサイバースパイ行為が新たに取締りの対象になった。

 ところで、習近平氏がトップに立って間もない2014年11月に「反スパイ法」が施行されて以降、日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されるケースが相次いでいる。

「反スパイ法」の最高刑は死刑である。

「何がスパイ行為に該当するのか」ということだが、条項には該当する行為が列挙される一方で、「その他のスパイ活動」という曖昧な表現もある。

 つまり、当局の裁量次第である。

 中国で活動する日本人を含む外国人としては、その線引きが曖昧。これまでもスパイ行為に関わったとして拘束された日本人はたくさんいる。

 日本政府関係者によると、2015年以降、今年の6月30日までに少なくとも17人が拘束されている。

 このうち、9人が中国の裁判で実刑判決となり服役した。

 裁判は非公開で、中国側はどのような行為が法律に違反したのか具体的に明らかにしていない。

 17人のうち、これまでに11人が拘束後に解放されたり刑期を満了したりして帰国したほか、1人が服役中に病気で亡くなっている。

 2023年3月、北京で製薬大手アステラス製薬の男性日本人社員(50)が身柄拘束された。

 中国外務省の毛寧・副報道局長は3月27日の定例会見で、この社員を刑法と反スパイ法違反の疑いで拘束したとしたが、具体的な容疑事実は明らかにしなかった。

 さらに、毛寧氏は「近年、日本人による同様の事件が相次いでおり、日本側は自国民への教育と注意喚起を強めるべきだ」とも述べた。

 筆者は、拙稿「中国で逮捕される日本の“スパイ”が急増、その理由と対策」(2018.8.8)で政府に対し、海外で無実の罪で逮捕・起訴される日本人を二度と出さないために、早急に国民を教育・啓蒙するよう要望した。

 しかし、スパイ容疑で逮捕される日本人は後を絶たない。

 本稿では、中国を仕事または観光で訪れる日本人が知っておかなければならない法律などについて再度述べて見たい。

 以下、初めに改正「反スパイ法」におけるスパイの定義について述べ、次に中国のスパイ対策に関連する法律について述べる。

 次に、2015年以降の日本人の拘束事例について述べ、最後に筆者が作成した中国においてスパイ容疑で逮捕されないための心得10則について述べる。