7月1日に中国で施行された改正「反スパイ法」。国家機密保持に神経をとがらせる習近平政権によるさらなる取り締まり強化が目的だが、そもそもどのような行為がスパイに該当するのか、その具体的な定義は改正後もあいまいなままだ。近年、日本人がスパイ行為に関わったなどとして中国当局に拘束されるケースも相次ぐ中、日本企業や現地駐在員たちは高まるチャイナリスクにどう対応すればいいのか──。東京財団政策研究所 主席研究員の柯隆氏がレポートする。(JBpress編集部)
中国政府が進めたいのは「厳格に管理された自由化」
いかなる国にとっても、国家の安全を守るのはその主権であり、中国政府にとっても例外ではない。ただし、国家の安全を守るといって人々の自由と人権を恣意的に侵害してはならない。この基本を守らなければ、国家の安全も守れない。
中国政府は40年ほど前からそれまでの鎖国政策に終止符を打ち、改革・開放の道を歩み始めた。その真髄は市場を開放し、経済を自由化することである。ただし、政府共産党は西側諸国と同じような言論の自由を保障したことが一度もなかった。
最高実力者だった鄧小平は生前、「門戸を開放することで中国社会にとって有害なハエも入ってくる可能性があり、だからこそブルジョア自由化に反対しなければならない」と述べたことがある。
中国政府が進めたいのは完全な自由化ではなく、政府共産党によって厳格に管理された自由化である。その管理の度合いは時によって、また政権によって異なるものになる。
国家の安全保障に関する政府共産党の一貫した論法は、外国の反中勢力の企てを防止しなければならないことである。
1989年6月に起きた天安門事件は学生や市民が民主化を求める自発的な運動だったにもかかわらず、政府共産党はそれが外国勢力によって扇動された「反革命暴乱」であると定義している。