なぜ藤浪はマイナー降格しないのか

 MLB30球団の中でアスレチックスのチーム総年俸は5月13日時点において6016万1310ドル(約81億6600万円)で最下位。この数字が示すようにアスレチックスには球団でシニアアドバイザーを務めるビリー・ビーン氏がGM職に就いていた時代に「セイバーメトリクス」の統計的手法をMLBの中で先駆けて導入し、なるべくカネをかけずにデータ重視の選手補強と育成を徹底させる「マネー・ボール」のシステムが今もなお根付いている。

 昨季のチームはア・リーグ西地区でリーグワーストの102敗を喫し、借金42を記録する惨たんたる成績で最下位に沈んだ。

 そこでビーン氏に代わって編成トップを任されたデビッド・フォーストGMは、不要と判断した高額の主力選手やベテランを昨オフに次々と放出する“血の入れ替え”を断行し、若手の底上げで活路を見出そうとした。もちろん伝統的な「マネー・ボール」の考え方は踏襲しながらだ。

 そこで同GMの目についたのが藤浪だった。フォーストGMは藤浪についてNPBでの経験値や持ち球の100マイル(約160キロ)前後のフォーシームやスプリットが十分にMLBでも通用すると踏まえた上で「我々は彼の存在を長い間追っていた」と明かし、過渡期のチームを支えてくれる存在になると判断して“渋チン”のアスレチックスとしては破格の好待遇で迎え入れていた。

 ただ、同GMが今季開幕前に自らがホストを務めるポッドキャスト番組「ザ・デビット・フォースト・ショー」の中で「克服できているはずだ。問題はない」と自信満々に語っていたはずの藤浪の制球難は結局のところ改善できていなかった。それでも、リリーフ転向後も幾度かの失敗を繰り返しながら防御率10点台をウロチョロしている藤浪に対し、いまなお3A降格を命じることもなく、ここまでメジャー登板のチャンスを与え続けているのだから「不可解」にも映る。