(舛添 要一:国際政治学者)
5月3日、ロシア大統領府は、「2機の無人機がモスクワのクレムリン宮殿を攻撃しようとしたが、軍や特殊部隊によってレーダーで無力化され、クレムリンの敷地内に落下した。被害は出ていない」と発表した。ロシアは、これをウクライナによるテロ行為だと非難したが、ウクライナ側は関与を否定している。
攻撃に使われたドローンは2機で、プーチン大統領は別の場所で執務していて無事であり、公務のスケジュールにも変更はないという。ドローンがクレムリンに接近し、上空で破壊される映像が公開されているが、この映像が本当のものか、作成されたものかも不明である。自作自演という可能性もあるが、もしそうならば、それは、ロシア人のナショナリズムに訴え、追加動員の加速化を図る目的がある。
屈辱的な事実を公表した狙いは国民の意識引き締めか
仮にロシア側の発表通りだとしても、様々な疑問が湧いてくる。
まずは、クレムリンに到達する前に無人機による攻撃を阻止できなかったことは、防空体制の不備を示しており、ロシアにとっては屈辱的なことである。それを公表したことは、屈辱に勝る利点があるからである。
5月9日は国民的祝日である第二次世界大戦の戦勝記念日であり、大々的な軍事パレードが行われる。ウクライナ戦争中の昨年も華々しく展開されたことは記憶に新しい。
今年は、安全への配慮から規模を縮小して行われることになったが、その小規模化を正当化するために、今回の事件をでっち上げ、ドローン攻撃の危険性を国民に認識させたとも考えられる。