個性に満ちた66名の画家を紹介

 さて、「大阪の日本画」展。展覧会の冒頭を飾るのは近代大阪を代表する画家・北野恒富。大阪を拠点に活動した日本画家の中では、最も知名度のある存在といえる。恒富は石川県金沢の出身だが、画家を志して大阪に移住。歌舞伎や芝居などの大衆文化からインスピレーションを受け、はんなりとした風情がただよう女性像を数多く描いた。

北野恒富《五月雨》1938年、大阪中之島美術館 展示期間:5/16~6/11

 展覧会には恒富の代表作が並んでおり、やはり女性像が見ものだ。『風』は枯葉散る中、向かい風を受けて、着物のあわせを手で押さえながら歩く女性を描いた作品。女性は風のいたずらに困ったような顔をしているが、表情は柔らかく、楽しささえ感じられる。画面全体に独特のおしゃれ感がただよい、映画『七年目の浮気』でマリリン・モンローのスカートがめくり上がるシーンを思い出した。

菅楯彦《阪都四つ橋》1946年、鳥取県立博物館

 北野恒富を筆頭に、展覧会では66名の画家が紹介されている。大阪庶民の生活を人情美豊に表現し「浪速風俗画」を確立した菅楯彦、中国画の影響を受けながらも独自の「新南画」を目指した矢野橋村は知っているが、ほかは聞き覚えがない画家が大半。画家の名前に捉われず、好みの画家を探り出す気持ちで鑑賞を楽しみたい。

矢野橋村《不動窟》1951年、矢野一郎氏(愛媛県美術館寄託) 展示期間:5/16~6/11

 それでは、印象に残った作品をいくつか。まずは中村貞以『失題』。展覧会のメインビジュアルとしてパンフレットやチラシに使われている作品で、実物を見ると「使いたくなる気持ちがよくわかる」と納得。正座を崩し、脇息にもたれかかる女性をモデルにしており、丸く柔らかな身体表現が何とも艶っぽい。顔には妖艶さだけでなく愛嬌が同居しており、見れば見るほど親近感がわいてくる。

中村貞以《失題》1921年、大阪中之島美術館

 話しかければ、気さくな関西弁が返ってきそうだ。中村貞以は幼い頃、大やけどによって指の自由を失ったという。両手に絵筆を挟む“合掌描き”で制作に励んだというが、細やかな表現力に驚くばかりだ。

『船宿の女』は北野恒富の内弟子であった樋口富麻呂による女性像。白麻布の鬘巻をした2人の女性が渋い色調で描かれた作品で、独特なデフォルメが見事。民芸作品のようなあたたかさとテキスタイルのパターンに使われそうなデザイン性があり、長く記憶に残る一枚だと感じた。

 島成園『祭りのよそおい』は、大阪の夏祭りが題材。一見、4人の少女の姿を情感豊かに描き上げた作品に見えるが、実は社会的格差による少女たちの心の揺れが巧みに表現されている。左に座る2人の少女は上等な着物と履物に髪飾りをつけ、手には扇子も。並んで座る少女は簡素な着物に身を包み、羨ましそうに2人の少女を眺めている。

島成園《祭りのよそおい》1913年、大阪中之島美術館

 さらにそんな3人の少女を離れたところから見つめる素足に草履姿の少女。髪飾りは野辺の花がたった一輪だ。どんな思いで、華やかな同世代の少女に眼差しを向けているのであろう。

 見れば見るほど、探れば探るほど、おもしろい。新たな発見が尽きない「大阪の日本画」をぜひ。