その当時、アリババはできたばかりで赤字の会社で、ビジネスプランさえ作ったことがないという。だが会った20社の中で、圧倒的に伸びる予感を与えてくれた。プレゼンの内容とか、会社の数字を見せてもらったわけではない。言葉のやり取りと、目のやり取り、彼の目つきだ。動物的な匂いだ。

 宮本武蔵が、ある菊の茎を見て、『この茎はすごい、誰が切ったのか?』と聞いたという。そういう匂いを感じることがあるのだ。アリババに投資した時、この会社とは長期的なパートナーとして一緒にやろうと決めた」

 アリババは、この4カ月前に、浙江省の省都・杭州で、社員18人で産声を上げたばかりだった。馬雲会長は地元で英語教師をしていたが、アメリカへ行ってインターネットを見たことで、一念発起して起業したのだ。

 ソフトバンクはこの時、アリババ株の32.59%を保有した。そしてビジネスに疎い馬雲会長を「指導」しながら、二人三脚でアリババを発展させていった。

ソフトバンクにとって最大の投資成功ケース

 その後、中国のWTO加盟(2001年12月)、改革開放を推進する胡錦涛政権の発足(2003年3月)、それに中国でのインターネットの普及などにより、アリババは急成長していった。2009年からは11月11日を「お一人様の日」(ダブルイレブン消費者デー)と定め、中国に「消費革命」を起こした。

 そして2014年9月19日、馬雲会長は長年の悲願だったニューヨーク証券取引所への上場を果たした。同所が1817年に開所以来、約200年の歴史で最大規模のIPO(新規上場)だった。アリババグループは「BABA」の名称で3.2億株を上場し、株式の時価総額は2383億ドルとなった。

 この時、誰よりも高笑いが止まらなかったのが、孫正義会長だったろう。20億円の投資が、2000倍を超える540億ドルに化け、一夜にして日本ナンバー1の富豪にのし上がったのだ。おまけにソフトバンク株も、以後の1週間で16%も上昇した。