(提供:アフロ)

「国が極秘に管理する巨額の資金を提供できる」――企業経営者らにこんなふうに持ち掛け、手数料等の名目で金銭を騙し取る、いわゆる「М資金詐欺」。荒唐無稽とも思えるような詐欺話だが、これまで数多くの被害者を生んできた。

 しかも被害者の多くは社会的地位のある人物が多く、体面を気にして、被害が語られることはこれまで稀だった。それだけに、ここでレポートする3月22日に横浜地裁で判決が下された裁判は、М資金詐欺の内幕が見える貴重な機会となった。ただ、一方で裁判は迷走し、「主犯はどこへ?」という仰天の結末となったのであった。その一部始終をお伝えしよう。

MI6所属を自称する男

 飲食大手コロワイド(東証プライム上場)の蔵人金男会長(75歳)に対し、「戦勝国が極秘に管理する2800億円を提供できる」と持ち掛け、約31億円を騙し取ったとして、神奈川県警が3人の男を逮捕したのは2020年6月のことだった。

 典型的なМ資金詐欺だが、約31億円の被害はおそらく史上最高額だろう。

 これだけ大きな事件にもかかわらず、横浜地検は逮捕された3人のうち、武藤薫被告だけを起訴して、残るXとYについては不起訴とした。これが後に問題となるのだが、それについては後述する。

 横浜地裁で武藤薫被告に対する刑事裁判がはじまり、2021年11月、被害者の蔵人会長が2日間にわたって証言台に立ち、被害の内容が明かされた。

 冒頭、検察官は武藤被告を指し示し、「武藤被告に会ったことは?」と蔵人会長に聞いた。

蔵人会長「あります。マック・アオイと言っていました」

検察官「本名は?」

蔵人会長「聞いたことございません」