時代が昭和から平成、そして令和に変わろうとも、人間の欲望はそうそう変わることはない。その欲望に付け込むように、昭和の時代から現れては消え、消えては現れる犯罪がある。「M資金」詐欺だ。
M資金とは、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)経済科学局第二代局長のウイリアム・マッカートが旧日本軍から接収した資金を元にして作った「秘密資金」とされる。そして、その実態不明な資金をエサに、数々の詐欺の道具に使われてきた。
詐欺師たちの主な手口は、まとまった資金を欲している企業経営者などに近づき、巨額の融資話を持ち掛ける。ただし、その準備に手数料が必要だと伝える。どうしてもまとまった資金が欲しい経営者は、その手数料を支払うのだが、肝心の融資はいつまで経っても実行されるはずもなく、気づいた時には手数料を支払った詐欺師もいつの間にか消えてしまっていた――といったところだ。
詐欺としては古典的な手口なのだが、もっともらしい舞台設定がしつらえられていたり、立場のある事物が紹介者になっていたりすることもあって、大企業の経営者もたびたび「被害」にあっている。だが、経営者がM資金詐欺の被害に遭ったということはその企業の信用問題にも関わるので、表ざたにならない場合も多いのだ。
そして、令和になった現代も、M資金の亡霊は日本を徘徊していた。ある大手不動産会社の経営者が、まんまと詐欺師に乗せられたのだという。
大手企業出身の弁護士
8月中旬のある日のことだ。東京・赤坂にあるイタリアンレストランで3人の男性が会食していた。上座に座る初老の男性は大蔵省出身の元国会議員で、下座には自民党大物議員の後援会長、そして都内に本店を構える不動会社の社長が並んでいた。
「先生」と呼ばれた元国会議員が、不動産会社の社長に語り掛けた。
「社長の会社も悪いことばかりが続いていると耳にするが、国交省との関係だけでなく、資金繰りは大丈夫なのか」
心配した口調の元国会議員に、不動産会社の社長は恐縮して答えた。
「本日は、先生にご教授を賜れないかと思って、お時間をいただいた次第です」
この社長が経営する不動産会社は、不祥事が重なり監督官庁から行政処分を受けた結果、公にはなっていないが銀行から取引停止を通告されていた。
しばらくして一人の男性が時間に遅れた非礼を詫びながら上座に座ると、横にいた「先生」がその男性をこう紹介した。
「この西田君(仮名)はトヨタ自動車の元社員で、今は弁護士をしている。自分よりも顔が広くて海外に人脈もあり、知恵もあるから、君も力を借りるといいよ」
弁護士と紹介された西田は笑みを絶やさず、
「先生ほどではありませんよ」
と、世辞で返した。