3月16日、金建希夫人とともに日本に到着した韓国の尹錫悦大統領(写真:つのだよしお/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国の尹錫悦大統領は、国内の世論を押し切るかたちで元徴用工問題の解決に取り組み、訪日して行った岸田首相との首脳会談で、日韓のシャトル外交を復活させた。尹大統領の行動は、韓国の国益という観点から極めて意義深いものであった。

 しかし、元徴用工や市民団体の主張よりも日本側の立場に近い線で問題解決を図ろうとする尹錫悦政権に、前大統領の文在寅派などから激しい批判が浴びせられることになった。文在寅派による批判には驚かない。問題なのは保守派でも尹錫悦大統領の擁護に躊躇するようになってきていることである。

「国賓訪米」で支持回復を見込んでいたが…

 文在寅派の反対は想定されていたことだった。

 それでも尹大統領が徴用工問題解決案を発表した時点では、大統領を支える保守派の結束は固いかと思われていた。解決案発表直後に行われた、与党「国民の力」の代表選挙では尹錫悦氏に近い金起鉉(キム・ギヒョン)氏が1回目の投票で選ばれ、最高委員も尹大統領に近い人々で固めた。

 ところが、尹大統領の訪日で潮目に変化が出てきた。日本の立場に寄り添ったつもりだった尹大統領だったが、岸田首相との首脳会談で、韓国側が期待していたほどの「見返り」が日本から提示されたかったことから、韓国保守層の結束が揺らぎはじめているように見える。これがいま尹錫悦大統領の外交姿勢を強く批判する動きに結びついている。こうした流れがどこまで続くのか懸念される。