文献にも記されている家康の「健康オタク」ぶり
今回のドラマでは「家康の側室探しを生母と正室が率先して行う」というユニークな展開のなかで、於大の方と瀬名は嫁姑のややこしさを抱えながらも、むしろ意気投合しているシーンが多かった。二人がどんな化学反応を起こすのかも、今後の見どころの一つだ。
また、際立ったのは瀬名の優しさである。側室への嫉妬を見せないようにしながら、家康を支える瀬名。瀬名が家康の健康を気遣って薬草を煎じて、それを家康が苦手ながらも飲む場面は、印象的だった。
というのも、文献には、家康は健康にかなり気づかっていたと思われる記述が多く残されている。真夏でも温かいうどんを食べて胃腸を守るようにしていたとも言われている。
また、盟友の織田信長から届いた見事な桃ですら、季節外れだと判断すると、自分は食べずに家臣に分け与えた。今回の大河ならば、間違いなく信長にぶっ飛ばされそうなエピソードも残っているくらいだ。
粗食を心がけて、麦めしばかりを好んで食べた家康は、健康のため自ら薬の調合まで行っていたという。そんな往年の家康が実践したセルフケアのきっかけが、正妻の瀬名にあったのではないか。今回の大河はそう思わせるものだった。
ドラマでは、若き日の家康が等身大で描かれている。そのため、「天下人」になった後の家康と、どう結びついていくのかを見守る楽しみもある。薬草をまずそうに飲む若き家康の姿をみながら、そんなことに気づいたのだった。
【参考文献】
大久保彦左衛門、小林賢章訳『現代語訳 三河物語』(ちくま学芸文庫)
中村孝也『徳川家康文書の研究』(吉川弘文館)
平野明夫『三河 松平一族』(新人物往来社)
所理喜夫『徳川将軍権力の構造』(吉川弘文館)
本多隆成『定本 徳川家康』(吉川弘文館)
柴裕之『青年家康 松平元康の実像』(角川選書)
大石泰史『今川義元』(戎光祥出版)
二木謙一『徳川家康』(ちくま新書)
菊地浩之『徳川家臣団の謎』(角川選書)