もとはと言えば、移民を排斥したトランプ前大統領が新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」「武漢ウイルス」と呼んだことから、トランプ支持派が踊らされて、全米で中国非難を拡大させ、アジア人差別に火がついたのである。20世紀初頭に欧米で起きた「黄禍論」(黄色人種が災難をもたらす)が再現されたような空気感すら漂う。

 バイデン大統領は2021年3月、アジア系に対するヘイトクライム事件が急増していることを指摘し、「沈黙は共犯だ。我々は行動しなければいけない」と述べて、司法当局による対策の指針を打ち出した。全米各地のアジア系団体も続々と声をあげ、「反ヘイトクライム」の市民運動を立ち上げた。

 だが、ヘイトクライム事件はやや減少したものの、相変わらず収まらない。

アジア人は自己防衛策を

 2022年春、NY市では新型コロナウイルスの感染者数及び入院者数が急増し、NY市保健当局は4月17日、新型コロナウイルス蔓延状況に関する「アラート・システム」のレベルを「中」から「高」に引き上げた。

 新規感染者数は2022年3月から増加傾向にあり、ほぼオミクロン株に置き換わって、4月時点で、1日平均の感染者数は3500人以上、陽性率10%超を記録した。それに伴いヘイトクライム事件も目立っている。

●6月11日、マンハッタンのミートパッキング地区で、アジア系の女性たちに唐辛子スプレー(ペッパースプレー)を吹きかける事件が発生した。被害者はクイーンズ在住の20代の女性4人で、屋外の公共スペースで話をしていたところへ見ず知らずの女が歩み寄り、「国へ帰れ!」などと人種差別的な暴言を吐き、ひとりの女性の顔に向けてスプレーを浴びせた。目撃者がその様子を携帯電話で録画してSNSで公開したことから、ニューヨーク市警が捜査に乗り出し、フロリダ在住の女を逮捕した。この容疑者は同日の犯行1時間前にも、13歳の少女を含む3人に同様の暴言を吐き、スプレーをかけていたことが判明した。
●ニューヨーク市ではないが、今年2023年の1月11日にも、インディアナ州ブルーミントン市で、同市内の大学に通う学生がアジア系だという理由で、頭部を刃物で刺される事件が発生している。