なぜ機長は「緊急事態」を宣言しなかったのか

 今回の機長の判断は法律的には合法であり、処罰の対象とはならない。だが、機長は管制官に緊急事態を宣言していなかったと報道されている。

 一般に、今回のようにトラブルを通告して、最寄りの空港に緊急着陸したいとする場合には、管制官は機長に「では緊急事態(Emergency)を宣言しますか」と確認するものだ。管制官は緊急事態を宣言されれば、消防をはじめ、関係機関に連絡し、地上で救助体制が取られる仕組みとなっている。

 筆者は、機長が緊急事態を宣言しなかった一方で、着陸後、滑走路から誘導路に出たすぐの場所で、しかもシューターを使った脱出に大いなる違和感を持っている。

 緊急事態の宣言なしで、今回のように突然シューターを使った脱出を開始しても、消防などからのサポートも遅れてしまう。

 一般にシューターを使った緊急脱出は、機内火災で煙が充満してきた時など、1秒を争う時に機長が必要と判断して実施するものである。そして、全員が脱出を完了するまで90秒以内とする、いわゆる「90秒ルール」がある。

火災など早急の全員脱出が必要な際、脱出シューターの使用を機長が判断する。写真は2015年10月に米フロリダ州の空港でエンジンが炎上した事故(写真:ZUMA Press/アフロ)

 一方、時間的に余裕があり、地上からの支援体制が整っていれば、タラップをつけて、CA(客室乗務員)が通常の方法でドアを開けて脱出させても、シューターを使う方法と時間的にほとんど差はないと言っても良い。あらかじめ機の停止位置を決めて、タラップを用意していれば、簡単にできることである。

 筆者も一度同じようなことを経験している。